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 【link】

「FLOT.com」◆(2010/06/07) Дополнительную спасательную капсулу для испытаний атомных подводных лодок впервые построили в Северодвинске
新造原潜「セベロドビンスク」,救命カプセルをテスト

Gigazine」■(2009/08/02) 「タフガイ」プーチン首相,世界最深の湖底に潜水:AFP

「ギズモード・ジャパン」◆(2012/07/04) 世界の脱出ポッドあれこれ12選
 シエラ級原潜「コストロマ」のレスキュー・チェンバーも紹介

「藤岡真blog」◆(2010.3.3)徹底検証 唐沢俊一追討日記 その12 桃井真
 「海底戦車」関連


 【質問】
 ソ連/ロシアの深海潜水艇について教えられたし.

 【回答】
 ソ連海軍は,複数のタイプの潜水艦救助用バチスカーフ(深海潜水艇)を設計,建造しました.

 これら深海潜水艇のソ連/ロシア海軍における正式分類は,
Спасательный Глубоководный Аппарат(救助深海装置)
ですが,ロシアにおいては,「バチスカーフ」батискафという呼称も一般的に使われています.

 ソ連邦時代に建造されたのは,以下の4タイプです.
 ソ連/ロシアのバチスカーフに関する,纏まった情報を載せているのは,ソ連/ロシア潜水艦総合情報サイト『シトルム・グルビニィ』くらいしか無いので,同サイトを参考にしています.

●プロジェクト1832/18321「ポイスク-2」
 ルビーン海洋工学中央設計局が設計
 アドミラルティ造船所で建造

 全長16.33m,幅2.52m,全高5.10m,潜航深度2000m,乗員3名

 1975~1990年に4隻建造
 1番艇はプロジェクト18321に改装

搭載艦:
 プロジェクト537救助船
 プロジェクト05360/05361救助船
 救助船コムーナ

プロジェクト1832

●プロジェクト1837/1837K
 ラズリト中央設計局が設計

・1837:45t,全長10.7m,幅3.9m,全高5.4m,潜航深度550m,乗員3名
・1837K:46t,全長12.0m,幅3.49m,全高4.87m,潜航深度550m,乗員3名

 1970~1980年にプロジェクト1837を5隻建造
 1980~1985年にプロジェクト1837Kを4隻建造

搭載艦:
 プロジェクト537救助船(エルブラス級潜水艦救難艦)
 プロジェクト05360/05361救助船(ミハイル・ルドニツキー級潜水艦救難艦)
 プロジェクト940特務潜水艦(インディア級救難潜水艦)

プロジェクト1837

●プロジェクト1839/18392
 ラズリト中央設計局が設計

・1839:46t,全長13.6m,幅3.49m,全高4.87m,潜航深度500m
・18392:47t,全長13.6m,幅3.4m,全高5.06m,潜航深度500m

1971~1982年にプロジェクト1839を7隻建造
1983~1980年代末にプロジェクト18392を4隻建造

 搭載艦:
プロジェクト537救助船
プロジェクト05360/05361救助船
プロジェクト141救助船(カシタン級潜水艦救難艦)

プロジェクト1839
faq39m1839.jpgへのリンク
faq39m1839b.jpgへのリンク

●プロジェクト1855「プリズ」
 ラズリト中央設計局が設計

全長13.5m,幅3.8m,全高5.7m,潜航深度1000m,乗員3名

1987~1990年に4隻建造

 搭載艦:
プロジェクト537救助船
プロジェクト141救助船
プロジェクト940特務潜水艦

プリズ

 1タイプを除き,全てラズリト中央設計局が設計しています.
 ラズリト設計局は,ゴーリキー市(現ニジーニー・ノヴゴロド)にある造船所クラスノエ・ソルモヴォ付属の潜水艦設計チームであり,チャーリー級,シエラ級原子力潜水艦も設計しています.
 ラズリトが設計したバチスカーフは,全てクラスノエ・ソルモヴォ造船所で建造されました.

 これらのバチスカーフ(救助深海装置)は,沈没した潜水艦の乗員救助の他,海底の捜索,海底から沈没物を引き揚げる際の水中作業などに使われます.

 〔略〕
バチスカーフの一部は,今も現役です.
 インディア級は既に除籍,解体されていますが,ロシア海軍の各艦隊に配備されている潜水艦救助船には,バチスカーフが1隻搭載されています.

 現在,潜水艦救助船に搭載し運用されているのは,
プロジェクト1855×4隻,
プロジェクト1832×2隻,
プロジェクト18392×1隻
です.

 2009年11月6日,タタール海峡に墜落した対潜哨戒機Tu-142MZの捜索には,太平洋艦隊所属のプロジェクト1855救助深海装置2隻(AS-30とAS-28)が投入されました.
http://blogs.yahoo.co.jp/rybachii/folder/1044381.html

 プロジェクト1855救助深海装置AS-28は,2005年8月4日,カムチャツカ沖で遭難し,8月7日,イギリスの無人潜水艇「スコーピオン」に救助されました.
 その後,造船所に送られて近代化改装を行ない,2008年4月に復帰しました.
http://blogs.yahoo.co.jp/rybachii/31210552.html

 ソ連邦解体後も,新型バチスカーフの建造は,細々と続けられています.

●プロジェクト18270
 ラズリト中央設計局が設計
 クラスノエ・ソルモヴォ造船所で建造

1996年に1隻竣工,1隻建造中

 排水量50t,全長12.0m,幅3.2m,全高5.0m,潜航深度720m

●プロジェクト16180
 マラヒト海洋工学中央設計局が設計
 アドミラルティ造船所で建造

2007年に1隻竣工,1隻建造中

 排水量25t,全長8.0m,幅3.9m,全高3.85m,潜航深度6000m

 プロジェクト16180は,潜水艦救難用ではなく,深海作業用ですが.

 なお,2009年8月にウラジーミル・プーチン首相が乗ってバイカル湖に潜った潜水艇「ミール」は,ロシア海軍ではなく,ロシア科学アカデミー所属です.
http://www.47news.jp/CN/200908/CN2009080301000046.html

●深海装置「ミール」
 ラズリト中央設計局が設計

1987年にフィンランドで2隻建造

 排水量18.6t,全長7.8m,幅3.8m,全高3.0m,潜航深度6000m,乗員3名

「ロシア・ソ連海軍報道・情報管理部機動六課」
2010/1/27(水) 午後 7:45


 【質問】
 1839号計画型深海潜水艇AS-12について教えられたし.

 【回答】
 ロシア・ソ連潜水艦総合情報サイト『ディープストーム』より【プロジェクト1839・AS-12】参照.

 ソ連/ロシア海軍のプロジェクト1839救助深海装置(バチスカーフ)AS-12(二面図)は,
1977年2月,ゴーリキー(現ニジニ・ノヴゴロド)の造船工場「クラースノエ・ソルモヴォ」で起工.
 1979年1月30日に進水,1979年6月29日にソヴィエト連邦海軍へ引き渡されました.
 1980年12月10日に赤旗太平洋艦隊の編制へ加入し,救助船「ゲオルギー・コジミン」を母船として,ウラジオストク南端のウリス湾に配備されました.
 1983年には大韓航空機撃墜事件で,撃墜されて海底200メートルに沈んだ,大韓航空のボーイング747旅客機の探索に参加しました.
 2004年,ロシア海軍の編制から除籍されました.

 そして,2009年以降は,ウリス湾の岸壁で放置されています.
faq130725as3.jpgへのリンク
faq130725as4.jpgへのリンク
faq130725as5.jpgへのリンク

 AS-12が置かれているのは,ウリス湾のこの場所(画面の真ん中)です.

 ウリス湾には,ディーゼル潜水艦などが駐留しています.

 【関連リンク】
[ロシア/ソ連のバチスカーフ(深海潜水艇)と幻(妄想)の海底戦車]

新「六課」,2012/12/02
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 プロジェクト1855型小型潜水艇AS-28について教えられたし.

 【回答】
 この潜水艇は,プロジェクト940(インディア型)搭載用として造られました.
http://deepstorm.ru/DeepStorm.files/45-92/dss/940/list.htm

 AS-28は,プロジェクト1855と呼ばれるタイプです.
http://deepstorm.ru/DeepStorm.files/45-92/sass/1855/list.htm

 940搭載用としては,この他に,プロジェクト1837/1837Kというタイプも有りました.
http://deepstorm.ru/DeepStorm.files/45-92/sass/1837/list.ht

 2005年8月4日,カムチャツカ沖で遭難し,8月7日,イギリスの無人潜水艇「スコーピオン」に救助されました.

 ロシア連邦国防省公式サイトによれば,AS-28は救助された後,ロシア内陸部ニジーニー・ノヴゴロド市に有るザヴォート「クラスノエ・ソルモヴォ」へ送られ,近代化改装が行われていました.
 この改装で,AS-28は,最新の航行補助装置を装備し,20年前のアナログ・システムは,デジタルに換装され,10ミリのワイヤーロープ切断と水中溶接が出来る新型マニピュレーターが装備されました.

2008年4月,ロシア海軍太平洋艦隊へ復帰しました.
 改装を終えたAS-28は,鉄道でウラジオストクへ運ばれ,カムチャツカへ移送されました.

 1855型ですが,現在の母艦は,プロジェクト05360救助艦です.
http://warfare.ru/?lang=&catid=302&linkid=2157

AS-28
faq39m1855as28.jpgへのリンク
faq39m1855as28b.jpgへのリンク
faq39m1855as28c.jpgへのリンク

Небесный бытьネベスニィ・ビィチ~ロシア・ソ連海軍~
2008/4/25(金) 午後 7:41

青文字:加筆改修部分


 【質問 kérdés】
 深海救難艇AS-30について教えてください.
Kérem, az mélyen aljas mentőautó AS-30-ról mondja meg.

 【回答 válasz】
 プロジェクト1855深海救助装置(バチスカーフ)AS-30は,遭難した潜水艦の乗組員の救助の為に設計・建造された深海潜航艇.
 1000メートルまでの深度で様々な作業を遂行する.
(写真1)
(写真2)

 1987年7月,ニジニ・ノヴゴロド市のクラースノエ・ソルモヴォ造船所で起工.
 1988年7月26日進水.
 同年12月11日にソ連海軍へ引き渡された.
 就役後は太平洋艦隊へ配備され,救助船「アラゲズ」を母船として活動.

 2009年11月6日にタタール海峡で消息を絶ったロシア太平洋艦隊の対潜哨戒機Tu-142M3の捜索に参加.

 2011年から2013年まで,サンクトペテルブルクのカノネルスキー造船所で近代化改装「プロジェクト1855.1」を実施.

 2014年6月,サンクトペテルブルクのカノネルスキー造船工場で定期修理と近代化を実施.
 旧式化した特殊機器は,デジタル世代のシステムと交換された.
 太平洋艦隊緊急救助支隊指揮官リフ・グルシェンコ1等海佐によると,水中物体の捜索及び発見の効率は大幅に増加.
 更に,AS-30の操縦性,処理システム及び救助船の船上へのデータ転送システムは改善されたという.

 2017年8月,太平洋艦隊の演習に参加.

 同型のバチスカーフにAS-28がある.

 【参考ページ Referencia Oldal】
http://rybachii.blog84.fc2.com/blog-entry-1547.html ※写真2引用元
http://deepstorm.ru/DeepStorm.files/45-92/sass/1855/AS-30/AS-30.htm ※写真1引用元
http://russianships.info/eng/submarines/project_1855.htm

mixi, 2017.10.30


 【質問】
 一等自営業せんせーの漫画に,旧ソ連の脅威を描く事例として,新潟の海岸(海底だったか)にソ連の海底戦車のキャタピラのあとが・・・うんぬんというのがありますが,正体はいったいなんでしょうか?

 【回答】
 当時の資料なんぞを引っ張り出してみると,これはソ連軍情報部(GRU)が70年代に,WW2時のドイツが設計開発した小型潜水艇の資料を元にして製造したもので,スペツナズの海軍部隊に所属して秘密浸透・攪乱・破壊工作を行っていたとされています.

 1982年10月,スウェーデンのストックホルム近くのバルト海海底で履帯の痕が発見され,同時に太い竜骨(キール)の痕も発見されたことから,キャタピラ付の小型潜水艇が母艦とランデブーし,スペツナズが秘密工作を行ったのではないかと当時話題になりました.

 また,日本でも1983年4月頃に,津軽海峡の海底で同様の履帯の痕が発見されたと言う報道があり,同じくスペツナズの秘密工作ではないかと言われました.

 一応写真などもあり(海底探査用とされている),それらしきものがあったのは確かなんでしょうが,本当に上記の秘密工作に使われていたかどうかは分かりません.

名無し軍曹 ◆Sgt/Z4fqbE :軍事板,2004/11/27
青文字:加筆改修部分

▼ 【反論】
>ソ連軍情報部(GRU)が70年代に,WW2時のドイツが設計開発した小型潜水艇の資料を元にして製造したもの

 深海潜航艇の設計と建造は,ラズリト中央設計局/クラスノエ・ソルモヴォ造船所ですが何か?

 ソ連邦時代,日本では,ソ連バチスカーフ(救助深海装置)を「海底戦車」だと勘違いする人も多かったようです.
 特に,ソ連海軍のインディア級救助潜水艦(プロジェクト940特務潜水艦)は,特殊部隊の潜入に使われると西側(日本)では信じられていた為,同級には海底戦車が載せられていると思う人も多かったようです.

 しかし,上の画像を見れば御分かりの通り,これらのバチスカーフ(救助深海装置)に「キャタピラ」など付いていません.
 インディア級救助潜水艦が搭載していたのは,プロジェクト1837/1837Kです.
(写真)

 あの小林源文氏によると,TVでウラジオストックにスクラップになって転がっている「海底戦車」を見たとの事です.
http://www.warbirds.jp/ansq/3/C2000707.html

 「一等自営業」氏がこう言った為か,今でも,これを信じている人は少なくないようです.
 しかし同氏が見たのは,プロジェクト1837です.
 もちろん,「キャタピラ」は付いていません.

 この他,プロジェクト1855もインディア級に搭載されました.
 むろん,こちらも「キャタピラ」は付いていません.

 結局のところ,「海底戦車」は,日本というか西側の連中が創り上げた幻(というか妄想)に過ぎなかったんだね.

「ロシア・ソ連海軍報道・情報管理部機動六課」
2010/1/27(水) 午後 7:45

青文字:加筆改修部分



 【質問】
 ご教示ありがとうございます.

 ところで一つ気になるのですが,この海底戦車の噂の発生源は結局どこなのか,どなたか心当たりはございませんか?
 当方の記憶するところでは,以前,どこかの画像掲示板において,「海底のキャタピラ痕」なる不鮮明な写真を見た覚えがありますので,そうした写真が出所ではないかと思うのですが.

消印所沢 in 2010/1/28(木) 午後 11:38

 【回答】
 自分が海底戦車の情報に初めて接したのは,今は無き『メカニックマガジン』誌の記事でした.
 大韓航空機撃墜事件(1983年)でのブラックボックス回収に,海底戦車が投入されたという「シミュレーション(空想)記事」の形で紹介されていました.
 ですから,1985年前後には,海底戦車は噂に上っていたと思われます.

 記事の内容は架空でしたが,噂については真っ当に紹介されており,海底を這ったキャタピラ痕らしき写真も紹介されていました.
 たぶん,掲示板に流れた画像と同一と思われます.

 当時,北海沿岸諸国はソビエト潜水艦の活動に非常に神経を尖らせており,「正体不明のソナー音」も何度か記録されていたため,噂も真実味を帯びていたのではないかと.

 実際のところは,「キャタピラ痕」なるものは,生物の這った跡とかいったオチだったのでしょうかね?
 「新型潜水艦のスクリュー音」だと思って追跡したら,ビーバーが泳いでいただけ,なんて話もあるそうですし(^^;.

bygzam_ma08s in 「ロシア・ソ連海軍報道・情報管理部機動六課」コメント欄
2010/1/29(金) 午前 0:53

 また,
『国籍不明「海底戦車」の謎』(桃井真著,二見書房,1986.3.)
によれば,元はスウェーデン海軍・政府合同の「潜水艦防衛調査委員会」が1982.10.26発表し,それを受けて日本メディアが報道したものだという.
 同委員会が発表した,「海底戦車のキャタピラ痕」や「想像図」も,同書には掲載されている.
 以下,同書より引用.
――――――
 10月26日,ストックホルムの記者会見で,怒りもあらわに証拠を公表したのは,数ヶ月におよぶ徹底した調査にあたった潜水艦防衛委員会(委員長=アンデルセン前国防相)だった.
 なかでも劇的だったのは,海底に〝陸地に向かって〟キャタピラ軌道痕跡が2本残っている光景を,ビデオに撮った写真だった.

 また,2本の軌道痕跡から少し離れた海底には,艦艇のキール(艦首から艦尾までの底部)の後のような溝が長く1本残っていた.
 その痕跡は,オン・ザ・ロックになった例のU137の外殻を測定したときの記録と照合すると,W級のキールとそっくりだったという.※

 その他,最高機密に属するから公表はされなかったが,SOSUS(対潜音波探知機)や各種のソノブイ(海中聴音装置)のデータから,侵犯したのは1隻ではなく,ミニサブ3隻と,その搭載運搬指揮および救難にあたる母艦潜水艦3隻の計6隻らしい.

 〔略〕

 この事件を報道したサンケイ新聞〔1983.4.28朝刊〕によると,小型潜水艦は,全長10~20m,3~4人乗りだという.
 スウェーデンの委員会が確認したのは3隻で,そのうち2隻は艦底にキャタピラを装備し,海底を自由に行動できる型で,もう1隻は艦尾を海底につけて移動する型らしい,と同紙は伝えていた.

――――――p.17-18
※編者注:原文ママ.ソ連W型潜水艦がスウェーデン沖で座礁した,「ウィスキー・オン・ザ・ロック事件」のことを指している.
 その後,日本近海でも「海底戦車が出現?」と報じられたという.
 同じく同書より.
――――――
「津軽海峡の白神岬周辺の海底に,ソ連のミニ潜水艦のものと思われるキャタピラ跡が発見された.
 この海域には日米両国の水中聴音機が備えられており,ソ連のスペツナス(特殊部隊)が偵察ないしは破壊のため侵入した可能性もある」(サンケイ新聞,1984.8.22,特報84)
ということが分かったのだ.

 〔略〕

 84年8月31日の毎日新聞は,
「日本近海に出没したのは,スウェーデンで断定された超小型潜水艦軌道跡と一致し,全長5mほどで,2~4人乗り.
 中型潜水艦で目的地近くまで運ばれ……
 スクリューで水中を航行する……
 海底では船体の下部についた2条の無限軌道で,自由に動ける.
 任務を終えたあとは,母艦の中型潜水艦内に収容されて移動する」
と報道している.

 〔略〕

 同じ毎日新聞の報道は,日本〝政府筋〟が明らかにしたところでは,として,
「……無限軌道のあとは宗谷海峡の北海道寄り海域,陸地から3海里以内と,津軽海峡のやはり北海道側海域3海里内の海底数ヶ所で,ここ1年ほどの期間に順次,発見された…….
 (日本は)宗谷,津軽,対馬などの主要海峡は特定海峡とし,領海を3海里までとしている.
 外国の船舶がこの3海里以内に無断で入れば,もちろん領海侵犯となるが,無限軌道の痕跡は,その領海の,しかも陸地に極めて近い海底の柔らかい砂や土の上に,全て2筋ずつ並行して残されていた……」
と報道している.

 この記事で言う政府筋とは,マスコミの慣例で特定のニュース・ソースを明言しない約束のもとに,記事の内容に関連のある中央官庁から出た情報であって,権威ある,信頼度の高いもの,という意味なのだ.

――――――p.24-25
 しかし日本政府が本件について,調査委員会を設けた様子はないと,同書でも(批判的にだが)述べている.
 また,当時の防衛庁も海保も,一切コメントしていないという.

 さらに,「海底戦車」の役割等についても,本書は考察している.
 以下,その要旨.
・アンドロポフの書記長就任後,軍部の支持を取り付ける文脈上で,GRUスペツナスの利用価値を再認識し,それがこのような海底戦車の活発な活動に繋がったのではないか(p.62)
・上陸予定地点の海岸や海底,海流などの調査(p.108)
・戦時を想定して,現場指揮官に土地勘をつかませるための定期演習(同)
・ある重要な品物や人物を,衛星探知されずに輸送するための手段(p.148)
・盗聴防止の確実な手段として,情報伝達に使用(p.210-211)
……

 本書は全体として,なんというか落合信彦的というか,安手のサスペンス仕立てというか,故人には悪いが胡散臭いものであって,「要クロス・チェック」レベルというしかなく,その考察は当てになりそうにない.
 問題は,何でスウェーデンがそんな発表をしてしまったかだが,その前後にソ連潜水艦の領海侵犯事件が頻発しており――上掲書によれば,1981年10件,1982年40件――,もし海底戦車が虚構だとするならば,マスヒステリーの産物というしかない.


 【質問】

――――――
2004年4月22日の裏モノ日記
http://www.tobunken.com/diary/diary20040422000000.html
 今日は国際政治評論家桃井真氏死去.桃井かおりの父親.軍事アナリストとして有能な人だったが,ただ,この人,“海底戦車”説というトンデモ説に固執して,著書でいろいろ語っていた.
 二十年くらい前,この人の著書
(手元にないが,確かカッパの『戦略なき国家は挫折する』だったと思う.後にサラ・ブックスからそのものズバリ『国籍不明・海底戦車の謎』(原文ママ)という本も出した)
で,北朝鮮は日本海の底を,水陸両用の海底戦車で蹂躙しており,それが時折新潟や青森の海岸から上がってきては,歩いている人間を拉致して行く.津軽海峡の海中写真には,海底の砂の上に,巨大なキャタピラの後が歴々として残っている……とか書かれているのを読んで,ガッチャマンの世界かこれは,とオドロキ,“そんなものが残っていれば北朝鮮にいくらでも証拠として突きつけられるだろうが”と心の中でツッコミを入れたものである.
――――――

 「海底戦車」は,当時からトンデモ説だったのですか?

 【回答】
 今でこそ,ソ連崩壊によって情報公開が比較的進み,海底戦車の話はほぼガセだと分かっていますが,この話が初めて表れた1980年代は,ある程度信憑性のある話として伝えられていました.
 何しろ,この海底戦車の話を発表したのは,他ならぬスウェーデン政府.
 事件を調査したのは同国政府の「潜水艦防衛委員会」で,記者会見したのはその委員長だったアンデルセン前国防相(当時).
(この調査委員会のことは,『国籍不明「海底戦車」の謎』冒頭,p.17-20にも出てきます)
 パルメ・スウェーデン首相(当時)は,この事件に関して,ソ連を名指しで非難までしています.

 しかもこの当時,ソ連海軍潜水艦によると思われる領海侵犯事件が頻発しており,スウェーデンやNATO側は神経を尖らせていました.
 「海底戦車」事件の前年,1981年の10月には,ソ連の「ウイスキー型」潜水艦がスウェーデン領海内で座礁する,いわゆる「ウイスキー・オン・ザ・ロック」事件も起こっています.
 疑心暗鬼になって当然かと愚考いたします.

 ただ,疑心暗鬼が伝染したのか,
「日本領海内でも海底戦車が!?」
という報道も表れ,このあたりからちょっとした都市伝説化が始まったようです.
 ソ連崩後にもNHKの番組に,
「ウラディオストークにて,スクラップになって転がっている,海底戦車のようにも見えるもの」
が現れたりしました.
http://www.warbirds.jp/ansq/3/C2000707.html

 今日でも知識が更新されず,海底戦車の実在を信じている人は,少なからずいると思われます.

 また,『国籍不明「海底戦車」の謎』という本自体,どことなく落合信彦チックな,怪しげな記述になっています.

 そのため,当時の事情をよく知らない人なら,「トンデモ説」と安易に一蹴してしまうのも無理はありません.
 しかし同書には,「北朝鮮の,海底戦車による拉致」などは登場しません.
 同書を「読んだ」というのが本当であるとするならば,曖昧な記憶だけで上記引用文章を書いたことが明かです.
 仮にも追悼文という,「死人に口なし」の状況下で発表する文章であるなら,再読して確認するくらいはすべきかと考えますし,その確認の過程で当時の状況も分かったはずです.
 ……本当に読んでいたのなら,ね.


 【質問】
 「インディア」型潜水艇について教えられたし.

 【回答】

 救助潜水装置プリズ型(NATOコードネーム「インディア」型)は,水深1000mまで潜航可能な,深海救難用潜水艇です.
 水圧に耐えられるよう,チタン合金の船体となっています.

 1980年代後半に4隻が建造されました.

 ロシア・ソ連潜水艦総合情報サイト『ディープストーム』より
【プロジェクト1855「プリズ」】
AS-28:1986年8月12日就役,太平洋艦隊
AS-26:1987年11月25日就役,バルト艦隊
AS-30:1988年11月12日就役,太平洋艦隊
AS-34:1989年11月30日就役,北方艦隊

 太平洋艦隊所属のAS-30とAS-28は,2009年11月の対潜哨戒機Tu-142墜落事故でタタール海峡へ出動しています.
[Tu-142墜落事故(旧ブログ)]

 AS-28は2005年8月4日にカムチャツカ沖で遭難し,8月7日,イギリスの無人潜水艇「スコーピオン」に救助されました.
 その後,近代化改装が行なわれました.
[小型潜水艇AS-28,現役復帰]

[要目]
満載排水量:56t
最大速力 :3.7ノット
巡航速度 :2.3ノット
沈降速度 :0.5ノット
全長    :13.5m
全幅    :3.8m
喫水    :3.9m
非武装
乗員    :4

「プリズ」型模型

内部図解

「六課」ACS◆(2013/05/04) ロシア海軍は2013年に10隻の救助船と救助艇を受領する
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 人力潜水艇について教えられたし.

 【回答】
 ロシア・サンクトペテルブルクの企業が,マサチューセッツ工科大学の協力を得て開発したもので,2人乗り.
 2人がペダルをこぐ事で,潜水と前進をする事ができるという.
 緊急時用には,電力で移動する事もできるようにっている.
 現在の価格は約750万円だが,生産ラインに乗せること_より,約225万円まで価格を下げることが可能になるとしている.

 ……麻薬密輸組織等の御用達にならなければいいのだが.

 【参考ページ】
「サーチナ」,2010/01/04(月) 17:29(写真引用元も同じ)

faq39m00s.jpgへのリンク


 【質問】
 ロソス(Losos)型潜水艇って何?

 【回答】
 ロソス Losos 型は,(プロイェクト865型小型実験潜水艇のNATOコードネーム.
 ロシアではピラーニャ Pirhana 型とよばれていた.
 チタン合金製で1986年進水,1988年就役.
 The Piranya’s 1200 kW lead-acid batteries allows the submarine to remain underway for ten days and the submarines at sea replenishement capabilities allows the submarine within 8 hours to receive enough food, fuel and lubricants, and air for an additional ten days. (自然な翻訳不能につき,原文ママ)
 水中工作員搬送用.
 1991年,サンクトペテルブルクのSKBKは,本型のためのAIPシステムの開発を完了したが,予算難により1990代末退役.

 【参考ページ】
http://www1.cts.ne.jp/~fleet7/WSSt/WSSt150.html
http://www.geocities.jp/aobamil/7-9.html
http://en.wikipedia.org/wiki/Losos_class_submarine
http://fas.org/man/dod-101/sys/ship/row/rus/865.htm

(画像掲示板より引用)

【ぐんじさんぎょう】,2009/5/29 23:00
に加筆


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