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『パワーと相互依存』(ロバート・O・コヘイン & ジョセフ・S・ナイ著,ミネルヴァ書房,2012/8/30)


 【質問】
 「経済の相互依存」は紛争防止の決定打となりうるのか?

 【回答】
 たしかにリベラリストの中には,そういう主張をする人たちも多いが,事態はそう単純ではない.

 ナイ教授は,これらを「不幸なことに」と前置きして,以下のように述べている.

--------------------------------------------------------
 相互依存の世界でも紛争は続く.
 離合集散はより複雑になり,異なる種類のパワーが使われるようになるため,紛争はしばしばいくつものチェス盤で同時に戦うような感じになる.
 21世紀の紛争は,銃もバターも共に関与させられるのである.

 中国の毛沢東主席は,かつて権力は銃の筒[バレル]から生まれると言った.
 1973年の石油危機以後には,権力が石油1バレルからも生まれるということを,世界は思い知らされた.
 リアリスト[現実主義者]の中には,過剰反応して1973年を1914年や1939年になぞらえる人もいた.
 [これに対し]リアリスト的伝統の偉大な思想化であったハンス・モーゲンソー(Hans Morgen-Thau)は,軍事力と天然資源のもたらす経済力を分離させたという意味で,1973年[のできごと]は歴史的に先例がないと語っていた.

 1973年の石油危機は,重要な問題を投げかけている.
 すなわち,なぜ世界で最強の国々が,むざむざと何千満億ドルもの資金が弱小国に移転されることを許し,武力に訴えようとしなかったのであろうか.18世紀であれば,考えられないことであったであろう.
 これが19世紀であれば,富める国は,優越する軍事力を使い,問題ある地域を植民地化して,自らの都合のいいように事態を決着させたであろう.
 1973年までに何が変わっていたのであろうか.
 決して天然資源とカルテルによるパワーになったとか,経済力と軍事力が完全に分離してしまったとかいうわけではない.
 (省略)
 そうではなく,後に述べるように,これらの要素のすべてが複雑な関係の中で絡まり合うようになった,ということなのである.
 世界政治におけるこの変化を理解するためには,相互依存がどのようにしてパワーの源泉になりうるか,を検討してみなければならない.
--------------------------------------------------------

<まとめ>

・相互依存は,紛争防止の決定打にはならない.

・21世紀の紛争は,さまざまなパワーが絡み合う世界となる.

・相互依存がもたらすパワーの源泉については,よく理解する必要がある.

 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第7章を参照されたし.

 私見になりますが「リベラル派」に属するナイ教授が,相互依存に対しての限界をちゃんと示してるところは流石ですね,
 もっとも,教授は自身が提唱した「ソフトパワー」についても,ちゃんと限界点を示していますが.
 このあたりが「単純なリベラリストとは一線を画する」と思いますね.

ますたーあじあ in mixi

 だってナイ教授は「日本の腰抜けリベラル」じゃないですから.
 というか,リベラルってのは別に宥和主義のことじゃなくて,むしろ保守主義より戦闘的なとこがありますよ.

SLE某 in FAQ BBS



 【質問】
 では,相互依存はどのようにして「パワーの源泉」となりうるのか?

 【回答】
 まず「相互依存」自体,グローバリゼーション,帝国主義,ナショナリズムと同じように「明確な」基準がなく,矛盾した意味に用いられる曖昧な言葉であって,さらにそれも複雑に絡み合う性質のものなので,完全にこれを理解することは相当困難,あえてまとめてみると・・・・.

 最初に「相互依存」という言葉自身,政治家と分析家で,その意味が異なる.
 政治家は,ナショナリズムと同じように,それを旗印として,できるだけ多くの人の支持を集めようとする場合に使用する.
 ナイ教授の言葉を借りると
--------------------------------------------------------
「われわれは,みな同じ船に乗っている.だから協力しなければならない.だから,私に付いて来てほしい」
というわけである.
--------------------------------------------------------
という風に使用される.

 つまり,意味自身を曖昧にしておいて,それに参加すること事態を「いいこと」とに参加しているのだという雰囲気を作るために,これを「パワーの源泉」として利用する.

 これに対して分析家は,世界をもっと理解しようとするため,意味を鮮明にしたがる.
 分析家にとって,大小の問題と善悪の問題は別のことになる.
 彼ら分析家について,ナイ教授は以下のように述べている.
--------------------------------------------------------
 私たちすべてが乗っている船は,結局誰か一人の人の港に向かっているのであって,他の人の港に向かっているのではないこと,あるいは,オールを漕いでいるのは一人だけで,他の人は舵を取っているだけだとか,ただ乗りをしているだけだと,分析者なら指摘するかもしれない.
--------------------------------------------------------
 「分析用語」として相互依存を見た場合,これも意味が複雑かつ難解になる.
 これはナイ教授の言葉を引用することにする.
--------------------------------------------------------
 分析用語としての相互依存は,システム内の異なる部分に存在する主体なり事象が相互に影響しあっている状況のことを意味する.
--------------------------------------------------------
 まぁ,ぶっちゃけ単純化すると
「お互いに利益のある依存状態」
ということになる.
 相互依存自体は,善も悪でもなく,単なる「状態」で,相互依存が大きい場合もあれば,小さい場合も当然ありうる.
 これを,個人関係である「結婚」と絡めつつ,ナイ教授は以下のように分析している.
--------------------------------------------------------
 個人関係では,相互依存は結婚の誓いに要約されている.
 「富めるとき,貧しいとき,よき時,悪しき時も」お互いに依存しあって行こうというのだから.
 国家間の相互依存にもまた,富めるとき,貧しきとき,よき時,悪しき時がそれぞれ存在する.
 18世紀にジャン=ジャック・ルソー(Jean-Jacques Rous-seau)は,相互依存と共に,摩擦と紛争が生じるといった.
 彼の「解決策」は孤立と分離であった.
 しかし,これは現代の世界ではほとんど不可能である.
 北朝鮮やミャンマー(かつておビルマ)のように孤立策を試みる国家は,大変な経済的コストを覚悟しなければならないのである.
 世界の他の部分から国家が離婚を試みることは,用意ではないのである.
--------------------------------------------------------
<まとめ>

・相互依存にも,使用するものによって「パワーの源泉」が異なる,政治家は「旗印」として,分析家は「世界を理解しようとして」それを使用する.

・相互依存そのものに善悪はない.

・現在の社会で,相互依存の輪から外れようとすると,大変なコストを支払わなければならない.

やはり,相互依存は,少なくとも21世紀前半の現在において,重要な「パワー」となりえると思う.

 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第7章を参照されたし.

ますたーあじあ in mixi


 【質問】
 相互依存の役割を考える上で必要なものは?

 【回答】
 まず,相互依存は「源泉」「利益」「相対的コスト」「対称性」という四つの次元に分かれている.

 相互依存の源泉はは「物理的な現象(自然)」と「社会的な現象(経済・政治など)に分けられる.
 しかし,通常は片一方のみではなく,両方が同時に存在している,
 だが,この区別は,双方向もしくは相互の依存状況の「幅」を明確にするときに役に立つ.

 たとえば軍事的相互依存は,軍事競争から起きる相互の依存状況であり,武器の面からいうと,そこに「物理的な現象」が発生している,
 特に核兵器の開発とその後の核戦略ともなった「相互破壊確証(MAD)」は,これを激的に明示している.

 だが,これについては「社会的な現象」も存在していると,ナイ教授は分析している.

--------------------------------------------------------
 相互依存には認識上の要素も重要で,認識や政策の変化が軍事的相互依存の厳しさを低下させることもある.
 (省略)
 アメリカ人は冷戦期に,イギリスやフランスに核兵器があるからといって,夜も寝られなくなったわけではない.
 これらがアメリカに向けて使われるかもしれない,などという認識が存在しないからである.
 同様に西側の人々は1980年代後半から少しは安らかに寝られるようになった.
 ゴルバチョフがソ連外交に「新思考」を打ち出したからである.
 この変化をもたらしたのは,ソ連の武器の数の変化ではない.ソ連の敵意や意図についての,認識の変化だったのである.
 実際,ソ連の核兵器に対するアメリカの世論の不安は,ソ連の最終的な崩壊とともに霧散した.
 現実には,20世紀の末にあっても,数千に上るソ連の核弾頭が無防備のまま現存し,テロリストや,イラク,北朝鮮といった国家の手に落ちる危険があるのにである.
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 一般的には,経済的な相互依存は,軍事的な相互依存と似ているとされている,
 つまり伝統的な国際政治の材料であり,かなり社会的・・・特に認識においてはパワーの源泉として存在している.

 これについて,ナイ教授は以下のような意見を述べている.

--------------------------------------------------------
 経済的相互依存は,価値や費用についての政策選択に関連している.
 たとえば1970年代初頭に,世界人口の増加は世界の食糧事情を大幅に上回ってしまうかもしれないとの心配がなされた.
 多くの国がアメリカの穀物を買っていた.
 その結果,アメリカのスーパーマーケットの食品の値段は上昇した.
 インドでモンスーンが充分な恵みをもたらさず,ソ連の収穫管理が失敗したため,パン一斤の値段がアメリカで上がることになったのである.
 1973年,国内での価格上昇を防止するためにアメリカは,大豆の日本向け輸出を停止することを決定した.
 その結果,日本はブラジルに大豆生産の投資を行った.
 数年後,需要と供給のバランスがほぼ釣り合った時,アメリカの農家は大変苦しい思いを味わった.
 いまや,日本人が安い大豆をブラジルから買うようになってしまったからである.
 すなわち,物理的な不足に加えて,社会的決定が長期的には経済的相互依存に影響を与えるのである.
 短期的決定をする時は,常に長期的視野に立って考察する価値があるといえる.
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<まとめ>

・相互依存は「源泉」「利益」「相対的コスト」「対称性」という四つのファクターに分かれている.

・相互依存には物理的な側面と社会的な側面があり,通常,両方が同時に存在し,お互いに影響を与えている.

・相互依存の「物理的な面」は短期的なものを,「社会的な面」は長期的なものに関連していて,それらを踏まえたうえで政策決定を行う必要がある.

 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第7章を参照されたし.

ますたーあじあ in mixi


 【質問】
 相互依存の利益とは?

 【回答】
 一般的に,ゼロ・サムor非ゼロ・サムといった言われ方をする.
 ゼロ・サムとは,相手の損失がこちらの利益となり,逆も同じであるという状況.
 また,これはポジティブ・サム,ネガティブ・サムと言った表現をされることもある.
ポジティブ・サム:両者が得をする状況
ネガティブ・サム:両者が損をする状況

 定まったパイを切り分けると言う考えがゼロ・サム.
 大きなパイを焼こうというのがポジティブ・サム.
 パイそのものを床に落としてしまうのがネガティブ・サムと言うことになる.

 この状況について,ナイ教授は次のように分析している.

--------------------------------------------------------
 今日の相互依存の中には,ゼロ・サム的側面と非ゼロ・サム的側面が存在する.
 リベラルな経済学者の中には,相互依存を,すべて利益を得てすべての状況が改善されるというような共同利益,つまりポジティブ・サム状況としてのみ考える傾向が時に見られる.
 利益の不平等に注目せず,相対的利益の配分から生じる紛争に注目しない分析は,相互依存の政治的側面を見失うことになる.

 たとえば,日本と韓国のコンピュータとテレビを貿易したとすれば,両者が得をすることは間違いない.
 しかし,その貿易から生まれる利益はどのように分配されるのだろうか.
 日本と韓国の両者が共に得をするとしても,日本がずっと得をして韓国が少ししか得をしない,あるいはその逆,ということにならないだろうか.
 利益の配分,すなわち共同権益から誰がどれだけ取るかということは,一方の得が他方の損になるゼロ・サム状況なのである.
 こうして経済的相互依存には,ほとんど何がしかの政治的紛争が付きまとう.
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 さらに言うと,ポジティブ・サムのケースで,仮に大きなパイが焼けたとしても,誰が一番大きな部分を取るのかをめぐって争いが起きる可能性はある.
 相互依存し,共同の利益を得ている国家にしても,誰がどの部分の利益を取るかで,紛争がおきるかもしれない.

 また,ナイ教授は一部リベラル派経済学者の見通しに対して,以下の批判を行っている.

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 リベラルの分析者の中には,世界がより相互依存になると同時に協調が競争に取って代わられる,などという誤りを犯す人々がいる.
 彼らの論理では,相互依存は共同利益をもたらし,共同利益は協調を促進すると言うのである.
 しかし,経済的相互依存は武器としても使われる.
 セルビアやイラク,そしてリビアに対する経済制裁の発動を思い出してほしい.
 実際のところ,ある種の状況では経済的相互依存は武力より効果的なのである.微妙なさじ加減ができる場合があるからである.
 さらに,状況によって国家は,相互依存から生まれる絶対的利益に関心を持つよりも,競争相手が得るであろう相対的に大きな利益がこちらにはどんな被害をもたらすのかに,より強い関心を持つことがある.
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<今回のまとめ>

・相互依存には,ゼロ・サム・非ゼロサムと言う考え方が一般的で,さらにポジティブ・サムとネガティブ・サムという考え方がある

・相互依存が双方にとって利益をもたらすのは間違いないだろうが「どちらがより得をするか」によって,政治的紛争をもたらす可能性は常に付きまとう.

・どれだけ「パイ」が大きくなろうとも,その中の最大のものを得ようとして紛争になる可能性もある.

・相互依存は,協調だけではなく,武器としても使用されることがある.

 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第7章を参照されたし.

ますたーあじあ in mixi


 【質問】
 分析家によっては,世界は常に「ゼロ・サムだった」という人たちもいるが?

 【回答】
 これは,不正確な見方だろう.
 見方を変えれば,伝統的な政治世界においても,国際関係は「ポジティブ・サム」であったこともある.

 これについて,ナイ教授は,ヒトラーとビスマルクを比較している.

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 ドイツを統治していたのがビスマルクかヒトラーかで,大きな違いがあったであろう.
 一方の当事者がヒトラーのように勢力拡張を意図すれば,政治がゼロ・サム状況となって,一方の得が他方の損になることは間違いない.
 しかも,もしすべての当事国が安定を求めれば,バランス・オブ・パワーに共同利益を見出すことが可能になる.
 それとは逆に,経済的相互依存をめぐる新しい政治もまた,競争的なゼロ・サムの側面と,強調的なポジティブ・サムの側面の両方を持っているのである.
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 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第7章を参照されたし.

ますたーあじあ in mixi


 【質問】
 相互依存が国内政治に与える影響とは?

 【回答】
 そもそも相互依存の世界においては,国内問題と国外問題の区別が曖昧になるが(これについては後述)もちろん,国内政治にも大きな影響を与える.

 たとえば,1890年に相互的な利益に注目していたフランスの外交官は,ドイツの成長を抑制する政策を必要としていた
(それがフランスの脅威に直結するから)
 だが,現代において,ドイツの成長を押さえようとすることは,フランスの利益にはならない.

 ナイ教授は以下のように述べる.

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 フランスとドイツの経済的相互依存の意味するところは,フランスの経済が良くなるかどうかの最善の指標がドイツ経済の状況になった,ということである.
 いまや,両国が共通の通貨を使用するに至って,ドイツ経済が経済的にうまくやることがフランスの政治家の自己利益なのであり,逆もまた同様である,
 古典的なバランス・オブ・パワーの理論は,国家は,優越した地位を獲得しそうな国に対しては,その力を弱めるようにしか行動しないとしてきたが,[このような状況は]うまく当てはまらない.
 経済的相互依存状況で,国家は,絶対的利益と他国との相対的利益の双方に関心を持つのである.
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 そして,これは「国内」と「国際」の問題を曖昧にしている.
 これについて,ナイ教授はイラン革命の例を挙げて説明する.

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 1979年のイラン革命によって石油生産が低下し,アメリカ政府が国民に[高速道路の]自動車速度を55マイルにして,家庭のヒーターの温度を下げ,エネルギー消費を削減するように求めたことがある.
 これは,国内問題であろうか,それとも外交問題であろうか.
 [また,この石油危機に対応して]アメリカが石炭輸出するとすれば,石炭の露天掘りを許可すべきであろうか.
 この石炭を輸入する者は,露天掘りによって引き起こされるウェスト・バージニアの環境破壊に対処する費用もまた負担すべきであろうか.
 相互依存は,国内問題と国外問題を完全にミックスしてしまい,利害関係者の間に非常に複雑な連携関係,込み入った紛争パターン,かつてと異なる利益配分の方法を生み出すのである.
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<まとめ>

・相互依存の世界では,国際問題と国内問題の領域が曖昧である.

・相互依存関係にあるもの同志は,お互いに成長しあったほうが,少なくとも経済的には利益があり,自己利益に繋がる.

・相互依存は,国際政治・国内政治両方に大きな影響を与える.

 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第7章を参照されたし.

ますたーあじあ in mixi

 そしてドミニク・リーベンはその著書『帝国の興亡』において,国際問題と国内問題との利害の調整を上手に行う政治家がいない場合,戦争になり易いことを,第1次世界大戦のドイツと,第2次大戦の日本の例を挙げて説明している.


 【質問】
 相互依存のコストとは?

 【回答】
 相互依存にかかるコストに関しては,短期的には「敏感性」長期的には「脆弱性」という二つのことを考慮しなければならないだろう.
 この二つの要素について,ナイ教授は以下のように述べている.

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 敏感性とは,依存による影響の量と速度を意味する.
 すなわち,システムの一部の変化がどれだけ早くシステムのほかの部分に影響を与えるか,ということである.
 たとえば1987年には,外国人投資家たちがアメリカの利子率に懸念を持ち,それが債権・証券価格にもたらす影響に懸念を抱いてニューヨーク証券市場が暴落したことがある.
 それらはすべて急速に生じる,市場は,外国資金の引き上げに極めて敏感だったからである.
 1998年には,アジアの成長市場が困難に陥ったことが,地理的には遠く離れたロシアやブラジルの成長市場を害する伝染効果を発揮した.
 敏感性が高いということは,脆弱性も高いということを意味しない.
 脆弱性とは,相互依存のシステムの構造を変化させることの相対的コストのことである.
 すなわち,そのシステムから抜け出すためのコスト,あるいはそのシステムのゲームの規則を変えるために必要なコストとも言える.
 2つの国のうち,敏感性の低い国が必ずしも脆弱性も低いということにはならない.
 だが,むしろ脆弱性の低い国とは,その状況を変えるためにより低いコストで済む国のことなのである.
 1973年に石油危機の時にアメリカは,エネルギー消費量の16%のみを輸入エネルギーに依存していた.
 それに対し1973年の日本は,95%を輸入エネルギーに依存していた.
 アメリカも石油価格が上昇したのだからアラブの石油禁輸に敏感だったと言えるが,日本ほどには脆弱ではなかった.
 通貨危機でアメリカの成長率は0.5%下がったが,アメリカ経済は拡張を続けられた.
 他方,インドネシアは,地球規模での貿易と投資のパターンの変化に敏感かつ脆弱であった.
 インドネシア経済は大きなダメージを受け,それが国内的政治紛争につながったのである.
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 ただし,この「脆弱性」というものには程度があって,例えばイランでシャー(国王)が革命で倒されたときは,石油所洋画高く,市場が逼迫していた状態でイランの石油生産がストップした.
 イランから石油が入らなくなったことで,世界の石油供給が5%低下して,石油価格は急上昇した.

 だが,アメリカ人にとっては,ヒータの温度を下げたり,高速道路において,速度を55マイルにしたりするだけで,エネルギーの5%を節約することが可能だった.
 この程度のことで損害が防げるというのなら,アメリカは敏感であっても,脆弱ではないと言うことになる.

<まとめ>

・相互依存のコストを考える上では,短期的な敏感性と,長期的な脆弱性を考える必要がある.

・敏感性の低い国=脆弱性の低い国ではない(逆もしかり)

 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第7章を参照されたし.

ますたーあじあ in mixi


 【質問】
 相互依存の対称性とはどういうことか?

 【回答】
 これについては,まず「対称性」という言葉の意味を考えてみよう.
 対称性とは「比較的バランスのとれた状態」のことであり,相互依存においても「比較的バランスの取れた依存状態」ということになる.

 相互依存している二国間のことを考えてみると,比較的わかりやすい.
 相互依存しているといっても,片方は依存度が低く,片方は依存が高い状態を想定してみると,双方がこの「依存」を大事だと思う限り,依存度が低い方がパワーの源泉を持っている.

 この対称性は,国際政治において権力となりうるとナイ教授は述べている.

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 相互依存の非対称性を操作することは,国際政治における権力の源になるのである.
 分析者によっては,相互依存とは同等の依存状態のみに生じるものだと言う人もいるが,これでは,定義を狭くして最も興味深い政治行動を無視することになってしまう.
 そもそも,そのような完全な対称性などというものは実際にはほとんど存在しないし,その逆の完全なアンバランス,すなわち一方が他方に完全に依存しているが,他方は全く依存していない状況もほとんど存在しない.
 相互依存をめぐる政治の中心に非対称性が存在するのだと言えよう.
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 さらに,この「対称性」は,各問題ごとに意味合いが変化する.
 これについてナイ教授は,1980年代の日本からの資本輸入を例に挙げて次のように分析している.

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 1980年代にレーガン大統領が減税をして支出を増加させたため,アメリカは連邦政府予算を補うために日本からの資本輸入に依存するようになった.
 この状況を見て,日本がアメリカに対してとてつもない権力を持つようなったと論じる人々がいた.
 しかし,コインの裏側を裏返してみれば,もし日本がアメリカへの貸付をやめれば,アメリカが傷つくのと同様に自らも傷つくことが分かる.
 さらに,それまでアメリカに多額の投資を行ってきた日本人投資家にとっては,もし日本がアメリカへの貸付をやめて,その結果アメリカ経済が悪化することになれば,彼らの投資が減価してしまうことに気づかざるを得ないのである.
 [さらに]日本経済のサイズは,アメリカ経済の半分強というところであった.
 ということは,日米両国ともお互いを必要としているし,また両者ともこの相互依存状態から利益を得ていることは確かだが,日本は,アメリカが日本市場を必要とする以上に,その輸出先としてアメリカ市場を必要としていたのである.

 さらに言えば,日米関係の諸問題にはしばしば安全保障が関係してきた.
 第二次世界大戦後,日本は通商国家としての政策を追求し,大規模な軍事力を開発したり核兵器を保有したりすることはなかった.
 東アジア地域におけるソ連や中国の力とバランスをとるために,日本は安全保障上の保護をアメリカに依存したのである.
 したがって,1990年に貿易をめぐってアメリカと日本の間で紛争が持ち上がりそうになったとき,日本人は全体的な安全保障が弱まるのを防ごうとして譲歩したのである.
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 また,異なる問題において,それぞれ異なる「相互依存」関係に非対称性がある場合,問題と問題をリンクさせたり,切り離したりしたりしようとすることがある.
 これは,ナイ教授がポーカーを例に挙げて説明しているので,それを書いたほうが早い.

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 それぞれの問題領域ごとを1つのポーカーのゲームにたとえてみると,全部のポーカーが同時併行的にゲームされていることになる.
 ある国は1つのテーブルでチップが集中的に集まったのに対し,他の別の国は別のテーブルでチップが集まっているということがありうる.
 国家の利益やその立場によって,国家は,それぞれのテーブルを別々のままにしておこうとしたり,あるいはテーブルの間に関連をつけようとしたりする.
 こうして相互依存をめぐる政治的紛争の大部分は,このリンケージ[連携]の形成ないしは分離にかかわることになるのである.
 国家は,自らが強い領域では相互依存を操作しようとするが,自らが弱い領域では操作されることを防ごうとするのである.

 経済制裁はこうしたリンケージの一例である.
 たとえば,1996年にアメリカはイランに投資する外国企業に制裁を科すと威嚇した.
 だが,ヨーロッパ諸国が別のリンケージで報復を示唆すると,アメリカは後退したのである.
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<まとめ>

・相互依存には「非対称」な状態がほとんどである.

・双方依存している国の場合,その依存がお互いに大事だという意識を共有する限り,依存度が低い国のほうが強い立場にある.

・相互依存の対称性は,問題によって意味合いが異なる.

・相互依存に非対称性が存在する場合,これらをリンクさせたり切り離したりする.

 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第7章を参照されたし.

 この章は,読んで理解するのはそんなに難しくないんですが,FAQを作るとなると,マジで難しいです・・・・.

ますたーあじあ in mixi


 【質問】
 相互依存において,国家は国際組織をどのように使用するのか?

 【回答】
 トレードオフ(損得交換)などにより,自らが有利なように規則を作るなどするときに,国際組織の力を利用する.
 ナイ教授は,テーブルゲームでのチップのやり取りを例に挙げて,以下のように述べている.

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 国家は,テーブル間でのチップの移動に影響を与えるような規則を[自らに有利なように]作ろうとして国際組織を利用しようとする.
 皮肉なことだが,国際組織は,強者が独占的地位を確保しそうな軍事テーブルを,貧しい国が比較的よくやれそうないくつかのテーブルから切り離しておくことで,弱い国に恩恵を与えることもある.
 しかし,これには危険がないわけではない.他のテーブルの1つあるいはそれ以上ひっくり返すだけの強力な国が存在するかもしれないからである.
 金融や海運,公害や貿易などのそれぞれの組織で,軍事的に強いプレーヤーが負けすぎると,軍事以外のテーブルをひっくり返そうとするかもしれない.
 しかし,1973年に石油のテーブルでアメリカとヨーロッパは負けたのだが,彼らは自らの圧倒的な軍事力を使って石油テーブルを蹴倒すことはしなかった.
 後に見るように,複雑なリンケージの網の目がこのような行動を思いとどまらせたのである.
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 経済的な相互依存関係においては,最大の国家が常に勝利を独占するわけではなく,小国や弱小国でも,とある問題にリソースを集中させれば,かなりの利益を得ることが可能だ.
 ナイ教授はアメリカとカナダの関係を例に挙げている.

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 たとえばアメリカは,カナダの外国貿易のほぼ4分の3を占めるのに対し,カナダはアメリカの貿易の4分の1を占めるに過ぎない.
 したがって,カナダの方がアメリカに対してより依存していることになる.
 しかし,アメリカとのいくつもの紛争において,カナダはしばしば勝利を収めた.カナダは,アメリカに行動を思いとどまらせるような対抗措置,すなわち関税や制限などを取ると脅迫する用意があったからである.
 もしカナダの行動によって全面的な紛争に立ち至ってしまえば,アメリカよりもカナダの方が傷つくことはまちがいない.
 しかしカナダは,いつもカナダが負けるというルールに合意するよりも,時に対抗措置をとるという危険を冒すことの方がましだと考えたのである.
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 また,経済的な相互依存は核抑止に似た面があると説明している.

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 経済的相互依存の操作による抑止は,いくらか核抑止に似ている.
 どちらも,効果的な損害を与える能力と意図の信憑性に依存しているからである.
 非対称的な相互依存関係においても,[1つの問題に]強く集中し,[その問題解決のための脅迫に]高度の信憑性を持たせることのできる小国は,相対的に脆弱な自らの地位に打ち勝つことができるのである.
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<まとめ>

・相互依存世界において,国家は「自らに有利な規則を作る」ために国際組織を利用する.

・強国が弱国に対して,有利な規則を作る場合でも,弱国に利益が生まれることがある.

・経済的な相互依存においても,核抑止のような「抑止力」を発生させることが可能である.


 個人的にはだが,完璧に破滅的な核投射による抑止よりも,経済的な脅迫の方が信憑性は高いと思う,
 使用しても「完全な破滅」とはならないから.

 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第7章を参照されたし.

ますたーあじあ in mixi


 【質問】
 世界経済のリーダーシップはどのように取られてきたのか?

 【回答】
 基本的に,国際経済のルールは(現在のアメリカを見ても分かるように)最も大きな国の政策を反映している.

 19世紀に,イギリスが世界で最大の国であったとき,金融面はイングランド銀行が金本位体制を守って,世界金融の安定的な枠組みを決めていた.
 また,イギリスは航海と通商の自由も実効的に握り,1932年までは,世界貿易に対して巨大で開放的な市場を提供していた.

 その後,英国がWW1で傷つき,弱体化すると,アメリカが世界最大の経済大国になったが,アメリカはモンロー政策によって,国際問題から背を背け,これがWW2の原因の一つにもなった.

 以下,ナイ教授の分析.

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 世界経済の最大のプレーヤーが,その規模に見合う指導性を発揮するのではなく,依然として「ただ乗り」ができるかのごとく振舞ったのである.
 1930年代の大恐慌は拙劣な金融政策とアメリカの指導力のなさによってより悪化したのだとの説が,かなりの経済学者によって唱えられている.
 イギリスは開放的な国際経済を維持するには弱体化しすぎており,アメリカは新たな責任を十分に果たすことがなかったのである.
--------------------------------------------------------

 このことが,WW2語のアメリカ指導者たちの心には刻み付けられており,1944年,ニューハンプシャー州におけるブレントンウッズで行われた国際的な会議において,開放的な国際経済を維持するための諸制度を決めた,
 これが自由貿易体制の大元である.
(熱心に推進したのはコーデル・ハル,ちなみにケインズは「狂気の計画」と呼んだ)

 また,この会議においてIMF(国際通貨基金)制度が作られた.
 これは発展途上国などにたいして,国際収支上の困難や借款およびその利子の返済における困難に対処するべく作られた制度であり,資金の貸し出しを行う.
 ただし貸し出しにあたっては,借り入れする国に財政赤字や価格補助金の削減などの経済政策改革を行うことを条件とする,
 この政策は必ずしも効果的とはならないものの,1990年代の前半においてロシアを,後半においてはアジア通貨基金を救う役割を演じた.

・世界経済は,その時最大の国が行う経済政策に大きく反映される.

・イギリスがWW1で弱体化した後,アメリカは担うべき国際的な問題から背をそむけたが,WW2後はその反省から,ブレントンウッズ体制を作り出した.

・IMFはいつも必ず効果的とは限らないものの,1990年の前半はロシアを後半はアジア通危危機を救う役割を果たした.

 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第7章を参照されたし.

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 ※IMFの政策は,むしろロシア経済をいっそう悪化させた,という見解もある.詳しくはロシアFAQ参照.


 【質問】
 国際的な組織や協定は,相互依存に同様な影響を与えるのか?

 【回答】
 これはWTO(世界貿易機構,以前は「関税と貿易に関する一般協定「GATT」だった)やOECD(経済協力開発機構),G7(7台経済大国会議)などを見ると分かりやすい.
 まず,WTOは,自由貿易に関する規則を定め,多国間での数次に渡る交渉の中心的な役割を果たし,貿易の障壁を低下させた.
 OECDでは,国際的な経済政策の調整となったし,G7は,世界経済全体の状態について討議がなされた.

 この影響について,ナイ教授は以下のように述べる.

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 民間の国家間交流を急速に増大させる政策が,各国によってとらえられるようになった.
 その結果は経済的相互依存の急速な増大であった.
 1945年以後のほととどの期間に,貿易は毎年3-9%と,世界の総生産の成長よりもより速い速度で成長した,
 1950年にはアメリカの国民総生産[GNP]に占める貿易の割合は4%であったが,1990年までに13%と3倍にもなったのである.
 また,国際投資が毎年10%近くの速度で成長すると共に,世界的戦略を持つ巨大な多国籍企業がより重要になってきた.
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 これらの国際的経済機関が貧しい国よりも豊かな国々に有利に偏っている,という批判する人もいる.
 例えば,IMFや世界銀行は,アメリカ・EU・日本などに圧倒的影響を与え,投票権がそちらに偏っている.
 IMF専務理事は常にヨーロッパ人であり,世界銀行相殺は常にアメリカ人だった,
 アメリカは財政や貿易に大きな赤字を抱えても,わずかな批判を受けるだけですむが,貧しい国が同じような財政赤字を出すと,IMFが援助の条件として,市場の規律に戻るよう主張する.

 このことに関しては,ナイ教授は以下のように分析している.

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 貧しい国々は借金のためにIMFの助けを必要とするが,アメリカはIMF抜きで借金できることである.
 換言すれば,この機構は,金融市場の非対称的な相互依存の力関係を反映しているのである.
 IMFを廃止したところで,底流に存在する金融市場の力の現実が変わるわけではない,
 民間の銀行家や資金管理者に自体をゆだねれば,貧しい国々の借金はより困難になるかもしれない.
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 ただし,WTOは傾斜配分がなく,現在の総裁はタイ人だ,
 WTOは,貿易摩擦の仲介や,多角的な貿易協定に交渉の場を提供するなどの役割がある.
 加盟諸国は,枠組みの中で納涼や〔原文ママ.農業?〕繊維などの領域において,豊かな国々が貧しい国々から身を守ることを可能にしていて,貧しい国々には不利となっているため,これは不公平だ・・・と批判する者もいる.

 これについては,ナイ教授は以下の見解を述べている.

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 こうした批判は正しく,保護主義的政策は貧しい国々を苦しめている.
 だが,こうした保護主義の原因は豊かな国々の国内政治にあるのであり,もしWTOが役割を果たさなければ,より深刻になるかも知れない.
 繰り返すが,国際的制度は現下の力関係を緩和することはできても,除去することはできない.
 アメリカやヨーロッパが自らの利益に反するWTOパネルの厳しい決定に拘束されてきた事実は,たとえ周辺的であっても,制度が役立ちうることを示している.
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<まとめ>

・世界には様々な経済的な国際組織が存在している.

・これらの組織は,貿易額を増大させ,相互依存を推進してきた.

・国際組織が,豊かな国に有利なのは確かだが,それが存在しないと,事態はより深刻になる可能性がある.

・これらの組織は,問題を緩和することができても,除去することは不可能である.

 個人的には,最後のを戦争に置き換えると,面白いかもしれないと思った.

 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第7章を参照されたし.

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 【質問】
 国境を越えて広がる経済に問題はないのか?

 【回答】
 当然ながら,いくつもの問題を抱えている.

 そもそも,それぞれ分立している国家で構成される国際経済の管理は,豊かで強力な国家間ですら,まだまだ解決すべきことが多い.
 例えば,1980年代と,2001年以降に,アメリカは国内の支出を賄うための増税を拒否し,代わりに外国から借金をしたので,純債務国となってしまった.

 このことにより,1930年代の(大恐慌)再現の下地ができ,アメリカはイギリスのように衰退するだろうという予測が一部の論者の間で流れた,
 だが,アメリカは衰退しなかったし,内向きにもならなかった.

 この理由について,ナイ教授はアメリカの信頼度を挙げている.

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 他の諸国は引き続きアメリカに融資した.
 というのも,他の諸国はアメリカの経済を信頼しており,アメリカ経済が他の諸国の利益と合致したからである.
 たとえば,中国は対米輸出を促進するために,多額のドルを準備していた.
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 しかしながら,これも問題がないわけじゃなく,金融の乱高下は常に潜在的な問題であり続けているということもまた事実である.
 1999年にはEUのほとんどの国の間で通貨統合が行われ,新通貨[ユーロ]が登場した.
 ユーロは,準備通貨として,ドルの競争相手になるかもしれないという向きもあって,さらに地球規模での金融経済の成長が促されて,その流動性は安定への危険要因となる.

 この国際的な経済安定について,ナイ教授は以下の意見を述べている.

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 結局,国際経済システムの安定を維持するために,これら諸国がどれだけ協力する用意があるかということに,多くはかかっているのである.
 いずれにしても,地球的政治・経済システムは多く込み入った複雑なものになっている.
 かつてよりも,多くのセクター,多くの国家,多くの問題,多くの民間アクターが,相互依存の複合性に関与するようになっている.
 世界政治を単に大国間で起こるもの,単にバランス・オブ・パワーの中でバウンドするビリヤードの球とみなすことは,ますます非現実的になっている.
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<まとめ>

・国際的な経済には様々な問題がある.

・EUなどの通貨統合によって,国際的な経済の安定は崩れる可能性もある.

・21世紀の世界では,様々な問題が複雑に絡み合うので,単純なバランス・オブ・パワーで物事をみるのは,難しくなってきている.

 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第7章を参照されたし.

 ただし私見では,一章でナイ自身が述べているように,バランス・オブ・パワーは時代遅れになったとは言い難い,
 そうではなく,従来のバランス・オブ・パワーに様々な要因が複雑に絡み合うようになってきているのだろう.

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 【質問】
 複合的相互依存とは?

 【回答】
 これは,リアリズムの3つの前提を逆に考えたものだとされる.

 リアリズムの3つの前提とは
1.国家が唯一の重要な主体だということ.
2.軍事力が優越的な手段であること.(ただ,リアリスト=軍事至上主義じゃないので注意)
3.安全保障が主要な目標であること.

 これを逆にすると
1.国家は唯一の重要な主体ではなく,国境を越える脱国家的主体も重要である.
2.軍事力は,唯一の重要な政策手段ではなく,経済操作と交際制度の利用の方が優越である.
3.安全保障が主要な目標ではなく,福祉がもっと重要な目標となる.

 こんな感じに,「反リアリスト的」な世界のことを「複合的相互依存」と呼ぶことがある.

 これについて,ナイ教授は以下の見解を述べている.

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 社会学的に言えば,この「複合的相互依存」も「理念型」の一種である.
 「理念型」とは,現実の世界に存在しない仮想的な概念である.
 しかし,現実主義も現実の世界に完全に対応しているわけではない.
 複合的相互依存[という概念]は,世界政治の異なるタイプを想像することを可能にしてくれる思考実験だと言えるだろう.
 リアリズムも複合的相互依存も[その意味で]単純化されたモデル,あるいは理念型だと言えるだろう.
 現実の世界は,この2つの間のどこかに存在するわけである.
 とすると,このリアリズムと複合的相互依存を結ぶ線上のどこに,ある国とある国の関係は位置するだろうか,と問うことが可能になる.
 中東はリアリストの端に近いところに位置するだろうが,米加関係や今日の独仏関係は,複合的相互依存の端にずっと近いところに位置するだろう.
 この線上のどこに位置するかによって,政治の形態も異なり,権力をめぐる闘争形態もまた異なってくるのである,
 実際,国々の関係は,この線上でその位置を変えることもありうる.
 冷戦時には米ソ関係は明らかにリアリストの端に近いところに位置していたが,冷戦の終焉とともに,米ロ関係はリアリズムと複合的相互依存のちょうど中間あたりによってきたのである.
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 また,複合的相互依存とリアリズムが交錯する関係の例として,アメリカと中国が挙げられる.
 以下,ナイ教授の分析.

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 複合的相互依存とリアリズムが実際の世界で交錯する典型的な事例は,アメリカの対中関係である.
 対日関係のように,中国からの輸入はアメリカの対中輸出をはるかに上回っている.
 その結果,数十億ドルの貿易赤字が発生している.
 米中2国間の貿易関係は,非対称で中国に有利だが,アメリカがとりわけ中国の貿易停止に脆弱だというわけではない.
 というのも,アメリカは中国製品を失っても,他のどこででも購入して穴埋めができるからである.
 そして,中国には対米輸出の強い国内的誘因がある.
 他方,それでも,アメリカ製品にとっての中国市場の潜在的な規模や中国製品に対するアメリカ国内での需要からすると,不公正な貿易観光や人権侵害を理由にアメリカ政府が中国に制裁をかけることに反対してきたアメリカの多国籍企業をはじめ,様々な脱国家的主体によって,アメリカ政府が中国に敵対的に行動する能力は制限されている.
 同時に,中国の経済力と軍事力の急速な台頭は,東アジアのバランス・オブ・パワーに対する認識に強い影響を与えてきたし,1996年の日米安全保障の再活性化にも貢献した.
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 また,イラク戦争以前に,コラムニストのロバート・ケーガンは,その論の中で,多くのヨーロッパ諸国は,サダム・フセインのように,危険な独裁者との対決を望まないと述べた.
 ヨーロッパ諸国は,EUによる複合的相互依存の平和状態に慣れてしまっていて,ヨーロッパ以外でのリアリスト的な世界では,そうした状態はあまり該当しないにもかかわらず,そこにも「ヨーロッパの平和状態」を一般化しがちである.

 ケーガンは,アメリカ人は火星人で,ヨーロッパは金星人だ,という表現を用いた.
 これは,かなり単純にすぎる表現ではあるものの――イギリスのイラク戦争での役割を見ればわかる――,大西洋をはさんだ異なる政策や考え,それによる展望をうまくとらえている.

 これについて,ナイ教授は,ホッブスとカントを引き合いに出して分析している.

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 すべての先進国は,ホッブスのリアリストの海に浮かぶカントの平和の島々を形成している.
 カナダ,ヨーロッパ,日本との関係では,アメリカですら金星人である.
 また,世界中をホッブス的なリアリズムに分類するには,それをカント的な複合的相互依存に分類するのと同様に誤りである.
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<まとめ>

・複合的相互依存とは,リアリズムの逆の世界観を持つ.

・複合的相互依存は[理念的]な考えだが,リアリズムも,多かれ少なかれそういう側面を持っている.

・複合的相互依存とリアリズムは,いろいろな国の関係パターンによって,両方ともに存在する状態である.

・完全にリアリズムな世界も,完全に複合的相互依存の世界も存在せず,それらは,国と国との関係の数だけ,比率が違うだけで,両方存在している.

 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第7章を参照されたし.

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 【質問】
 複合的相互依存にある社会は,どのようにお互いに影響を与えているのか?

 【回答】
 「複合」という事から分かるとおり,様々な点で相互に作用している.

 ナイ教授は,交差点の例を挙げる.

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 交差点一つでは,あるいは交差点1つに警官一人というのでやっていくには,交通量が多すぎるのである.
 これら国境を越える相互作用の内,外交制作期間が主権的に制御していないものが,脱国家的関係と呼ばれるものである.
 たとえば,人口移動,世界の証券市場や金融市場で毎日行われている急速な資金移動,武器や麻薬の密輸,ある種のテロリズムなどである.
 もちろん政府はこれらを制御しようと思えばできるし,テロや密輸についてはそうしなければならないが,通常,そのためにはとてつもなく費用がかかる.
 その結果,ソ連経済は打撃を受けた.
 相互依存が高度に進み,多数の脱国家的主体が関与する状況において,古典的時代においては有用であったような省略表現は混乱と誤解を生みかねない.
「日本は輸入増大を約束した」
とか
「アメリカは,太平洋の大陸棚を広く解釈する主張に反対した」
とか言うが,より慎重に検討してみれば,数々の日本企業が国境を越えて輸出を増進していたり,アメリカ市民の一部には大陸棚の広い定義を求めて国際的ロビー活動をしているものがいたりする,などという事に気づく.
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 このナイが述べるような利害関係の錯綜は,古来から存在していたが,伝統的な軍事的安全保障に比べ,これら経済的問題の方がより顕著にこの影響を受けている.

 安全保障の問題とは,集団で共有される傾向にあるのに比べ,社会的経済問題は,それほど多くの人間が同じことを共有するわけではない,
 故に利害の対立は激しくなる.

 この結果,経済的な相互依存が進んでいくと,国際政治の課題として経済問題が取り上げられるようになるにつれて,上で述べたような省略的表現では,政治過程を充分に説明できなくなってきている.

 石油の例を挙げて説明してみると,1973年には消費国は低価格を望み,産油国は高価格を望んでいた.
 だが,実際の政治プロセスを見ると,このように二元化できるものではなく,消費国内部でも,生産過程においては高価格を望むものもいた.

 テキサスの小規模な石油産油企業は,OPECが石油の価格を吊り上げた事に関して,何の不満もなかった.
 彼らの利害はアラブと一致していて,ニューイングランドで凍えている人たちとは全く反対の意見であった.

 原子力製造に携わる者たちにとっても,これは逆にビジネスチャンスとなった.
 エネルギー源としての原子力がより注目されたからだ.

 衰退しつつあったヨーロッパの石炭産業と,それに関わる炭鉱労働者も,石油の価格上昇は,逆にチャンスとなった.

 別の観点では,環境保護団体にとっても,これは歓迎すべき出来事だった.
 なぜなら石油の高騰は,消費減につながり,これが結果的に公害を減らすと考えたから.

 このように,消費国内部においても,石油価格を巡って大きく利害の違いが存在していた,
 相互依存における国益と国家安全保障という覆いを取り除いてみれば,政治は従来とは全く違った様相を呈してくる.

 石油危機で,強大な力を持つ消費国側が武力行使を行わなかった理由の一つとして,石油価格の高騰をもたらした,相互依存の「敏感性」は悪くないという意見もあったし,石油の高価格を歓迎する連合が,国家を越えて,事実上出来上がっていたのである.

 この国家内部の利害対立について,ナイ教授は以下のように述べている.

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 言うまでもなく,国家内部に矛盾する利害が存在する事は新しくも何ともない.
 19世紀のアメリカ政治では,関税を巡る南部農民と北部工業家の対立が焦点の一つであった.
 国家内部に異なる利害が存在する事は,新しい事ではない.
 ジョージ・W・ブッシュ大統領が2002年に鉄鋼の関税を引き上げた際,鉄鋼製造企業とその組合は喜んだが,消費者にダメージを与えた.
 第2章で見たように,対外政策にとって,国内政治は常に重要であった.
 しかし,国内政治における参加が増大するにつれて,その傾向はさらに強まった.
 さらに,国内利益団体の中には,他国の利益団体と直接に連絡を取り合って相互に作用する能力を身につけるものが出てくる.
 そうなると,それまでとは違った世界政治が生まれる事になるのである.
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まとめ

・複合的な相互依存が進むと,多くの点で,相互作用が起きる.

・古来から利害の錯綜は起きていたが,経済問題において,それは顕著である.

・経済問題は,国の内部において,様々な利害の対立が起きることになる.

・これからの国際問題でも,引き続き経済問題が多くの議題にあがるだろう.

 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第8章を参照されたし.

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 【質問】
 伝統的な利害対立や考えは過去のものになりつつあるのか?

 【回答】
 そういった極端な考え方は間違っている.
 相互依存の社会においても,やはり利害関係や国益といったファクターは重要であり続ける.
 なぜなら,国家は通常,最も重要な主体たりえるからだ.

 だが,国家のみに関心を集中させる事も,また危険になりつつある.
 例えばの話,とある国家における脆弱性は,表面上を見れば脆弱かもしれないが,部分部分で,脆弱な部分とそうではない部分があることがわかる場合がある.
 そして,そのように国家内で異なる部分が,自分達の立場の強化のため(これは,自国最大化というオフェンシヴ・リアリズムのアプローチを,「とある共同体」に置きかえればわかりやすいかも)脱国家的な行動に出ることがある.

 結論として,国際政治は依然として最も重要なファクターではある.
 しかしながら,それだけでは不十分である時代が来つつあるということだろう.

 そして,それが悪い形で現れたのが9.11で,いい形で現れているのが,EU統合やFTA制度の成立などだろう.

 まとめると,国家はこれからも重要な存在であり続けるが,それを考えるだけでは不十分になってきている・・といったところか.

 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第8章を参照されたし.

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