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テロリズムFAQ目次


 【link】

「NAVER」◆(2015/02/13) シリアで「戦う」「結婚する」…イスラム過激派は「イスラム教徒の社会」外にリーチする。韓国からも参加か

「Togetter」◆(2014-06-30) カリフ再興に沸き立つ人々

「Togetter」◆(2015-02-03) ニネヴェ遺跡と連中の遺跡破壊の活動意図について

「Togetter」◆(2015-02-15) コーラン第9章5節についてのアハマディア・ムスリム協会のツイート

「Togetter」◆(2015-08-19) ISIS、パルミラ遺跡の保護・管理に半世紀を捧げた研究者を斬首


 【質問】
 ISISの「イスラーム国」宣言について教えてください.
 
 【回答】
 2014年6月29日,ISISは,アブ・バクル・アル=バグダディが「カリフ」であり,あらゆる場所のイスラーム教徒の指導者であると宣言.
 根拠ないけど.
 また,同じ声明において,組織名を「イスラーム国」と改称し,カリフ制国家であると主張.
 全世界をイスラームの下に統一することを掲げた.
 実際にやっていることは,シーア派などの虐殺だけれど.

 まあ,この組織はザルカウィ・グループだった頃から名前を変えまくりで,
アル=カーイダに媚びて,「イラクのアル=カーイダ(AQI)」と改名してみたり,
地元のイラク人に媚びて「イラク・イスラーム国」と変えてみたり,
シリア進出するとイラク人とシリア人の両方に媚びて「イラクとシャームのイスラーム国」と変えてみたり…

 このパターンから類推するに,イラク人とシリア人,更には同組織に参集する外国人戦闘員のどれにもイイ顔をしたくて,汎イスラーム的な国家を自称することに舌のではないか?と想像できる.
 事実,黒田文太郎『イスラム国の正体』(KKベストセラーズ,2015)によれば,シリアではISISと改称しただけで,イスラーム国家建設に魅力を感じて,他の反政府勢力から同組織に鞍替えした戦闘員もいたというから,改称だけでもアホを騙せる程度の広告効果はあるということだろう.

https://mobile.twitter.com/KCin_Tokorozawa/status/568050398319108096?p=p
に加筆改修


 【質問】
 ダーイシュの兵力は?

 【回答】
 外部からは実態が見えにくい上,「戦闘員」の定義にも依るため,推定値も上下に幅がある.[2]
 作戦時に一時的に徴兵された者なども,相当数いる可能性がある.[2]

 公安調査庁『テロリズム要覧』によれば,ISI時代にはイラクには1000~2000人,シリアに4000人程度.[1]
 しかし「イスラーム国」建国宣言によって,参加者が急増し,1万~3万人と推定されている.[1]
 …こいつらの「リテラシー」どこ行った?

 CIAの公表した数字では,2014年9月上旬現在,兵力は2万~3万1500人とされている.[2]
 一方,米中央軍のロイド・オースティン司令官によれば,9000~1万7000人と見積もられている.[2]

 【参考ページ】
[1]小泉悠「米国最大の敵・テロ組織「イスラム国」入門」,月刊『丸』2014年12月号
[2]黒井文太郎『イスラム国の正体』(KKベストセラーズ,2015)


 【質問】
 ダーイシュに加わっている外国人戦闘員の数は?

 【回答】
 CIAの公表した数字では,2014年9月上旬現在,2万~3万1500人とされるダーイシュ兵力のうち,外国人戦闘員は1万5千人.[2]
 また,国連の調査では,
同年3月時点で約7000人
同年7月時点で約1万2千人
8月のイラク空爆以降,毎月約1000人規模で増加しているという.[2][3]
 毎月約1000人の外国人戦闘員がイラクとシリアに入っていることは,米国の統計でも述べられている.[3]

 これら外国人戦闘員を出身国別にみると,最も多いのがチュニジア[1][2][3]で,約3000人.[2][3]
 次いで多いのがサウディアラビア[1][2][3]で,約2500人.[2][3]
 以下,
モロッコ,約1500
ヨルダン,約1300
トルコ,約1000
など.[2]

 ロシアでは,主にチェチェンから約500人[1]~800人[3]が参加,
 アメリカからは約100人が参加していると報じられている.[1]
 一方,アメリカ国防総省は,10人ほどのアメリカ人がISに参加しているらしいと発表した.[4]

▼ 東南アジア~東アジアからも戦闘員流入の動きがある.
 2014年9月,アメリカ太平洋軍司令官サミュエル・ロックリア(文中敬称略,以下同)は国防総省において,
「アジアからISISに累計1000人もの志願兵が集結し,『聖戦』に加わっている」
と警告を発している.[5]
 イラク国防省関係のフェイスブックには,中国人とみられるダーイシュ兵の写真がアップされ,インドネシアでは潜伏中だったダーイシュ関係者4人が当局に拘束された.[5]
 シンガポールではテオ・チーヒェン副首相が2014年10月,同国人が少なくとも2人,シリアで戦闘に加わっていると議会で証言している.[5]▲

 こうした外国人には,
・欧州で生まれたものの,社会に馴染めなかったイスラーム系移民の子弟
・アフ【ガ】ーニスタン戦争やイラク戦争に参加したものの,そこで悲惨な体験をしたり戦争の意味に疑問を感じるなどして,欧米社会に反発を感じた軍人
の他,
・決して貧しいわけでも社会に溶け込めていないわけでもないが,退屈な故郷であまり将来性のない仕事に就くよりも,冒険を求めた若者
も多数いるという.[1]
▼ これはダーイシュ兵についての分析ではないので,参考事例にしかならないが,2007年にニューヨーク市警が,欧米でのアル=カーイダ系組織によるテロ事例を基に纏めた報告書によれば,欧米でテロを実行する人々は,『若者』『中流家庭』『高学歴』『普通の生活と仕事』『犯罪歴の無さ』といった特徴で括られる,ごく『ありふれた人々』であるという.[5]
 そんな彼らが過激な思想に足を踏み入れたきっかけは,同報告書によれば,失業,疎外感,家族の死といった日常の不幸にすぎないという.[5]

 また,傭兵経験の長い高部正樹によれば,戦場に志願する青年に共通する特徴として,
「戦場に行った後の未来を思い描いている」
という.[6]
「戦場に行って,半年,一年して日本に帰ってきて,それからまた家業を継ぎましょう,とか,会社就職しましょう,とか,そういった都合のいい未来を考えている」
と高部は述べている.[6]▲

 まあ,あんな残虐な映像を見て,なおもダーイシュに参加しようなどと考える連中に,ろくなのがいないだろうことは,想像に難くないわけで…

 【参考ページ】
[1]小泉悠「米国最大の敵・テロ組織「イスラム国」入門」,月刊『丸』2014年12月号
[2]黒井文太郎『イスラム国の正体』(KKベストセラーズ,2015)
[3]http://www.afpbb.com/articles/-/3030582
[4]http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140905/k10014370111000.html
[5]"Newsweek" 2014.10.21号,p.27
[6]https://www.youtube.com/watch?v=7zw7D5RoLvM

出身国別,外国人戦闘員参加人数一覧
ただし,この統計は「シリア内戦に参加している外国人戦闘員」の数であることに注意
(こちらより引用)

世界・イスラム国・外国人戦闘員出身国ランキング
関連リンク


 【質問】
 ダーイシュの外国人戦闘員の中で,トルコ人が3番目に多いのは何故ですか?

 【回答】
 第一に,トルコ政府の消極姿勢が影響している.

 ダーイシュに家族を奪われた人たちは,トルコ政府の本気さを疑っているという.[1]
 以下引用.

------------
 アーメトは8月にISISに参加した.
 家族が暮らすのはイスタンブールの東の外れにある,公害と貧困まみれの工場町デロパシ.
 ここではISISの旗を支持者が車屋家の窓に大っぴらに掲げていると,兄ケナン(30)は話す.

[中略]

「ISISに参加する若者は後を絶たない.
 それなのに警察は何もしない」
と,学校教師のケナンは言う.
「クルド人が4人集まっただけで,警察はすぐに飛んでくる.
 その気になれば,政府は国内でのISISの活動を阻止できるはずだ」
------------[1]

 想像するに,トルコの警察は長年クルド人対策に特化してきたせいで,急な方針転換がうまくいっていないのだろう.
 日本でも似たような事例が過去にある.
 戦前の特別高等警察は長年,極左対策に特化してきたせいで,5.15事件や2.26事件のような極右事件に対しては後手に回り続けた.
 戦後も,やはり極左対策に特化し過ぎていた公安調査庁が,急にオウム真理教対策に乗り出さねばらなくなった時に,不手際ぶりを露呈し,公安調査庁解体論まで出るに至った.
 ある一つの方向に特化した組織は,それ以外の方面からの脅威に対して脆いのである.

 また,国境管理にも問題があったようだ.
 欧米諸国も暫く前まで,トルコ政府に苦言を呈していたという.[1][4][5]
 反アサド勢力を支援するために,トルコが国境を開放したせいで,ダーイシュの武器補給や外国人戦闘員の流入が容易だったからである.[1]

 2014年6月に,イラクの都市モスルにあるトルコ総領事館をダーイシュが占拠し,総領事ら49人を拉致する事件が起こって,ようやくトルコ政府も認識を改めた模様.[1]
 たとえば2015.2.9には,トルコ治安部隊によって,ダーイシュに加わろうとしていた容疑のある外国人13人を拘束している.[2]
 彼らは本国に強制送還されるという.[2]
 エフカン・アラ内相によれば,これまでに91ヶ国の外国人,1万人がトルコ入国を拒否され,74ヶ国の外国人1085人が強制送還されているとのこと.[2]

 国境管理者の腐敗も報じられている.
 密入国案内人や戦闘員,そしてシリアからの難民からの情報によれば,トルコの犯罪組織や買収された国境警備隊員が,金さえ払えば誰でも国境を越えてシリアに入れるようにしているという.[4]

 アナスと名乗る20歳の若者は,パスポートを持っていないにもかかわらず,トルコの正式な国境検問所を通って,シリアとトルコの間を何度も行き来している.
「トルコの国境警備隊に賄賂を渡してあるからだ」
と,アナスはこともなげに言う.[4]
 また,シリアのアレッポに住む,23歳のラミ・ザイドは,バブ・アルサラム検問所の東側にある警備が手薄な場所から,月に1,2回はトルコ側へ渡っているという.
 ザイドもパスポートを持っていないが,アナスとは違い,パスポートがないと正式な国境検問所は通れない.そのためザイドは,トルコとシリアの密入国案内人に毎回25~50ドルを払って,国境を越えさせてもらっているという.[4]
 24歳のシリア人,アブ・ハルハレンは,羊を売買する仕事を辞めて,密入国案内人になった.
 彼はバブ・アルサラム検問所の警備隊員を買収し,国境の向こう側の,自由シリア軍に属する戦闘員やより過激なジハーディストが支配する地域へ,毎月100人ほどを密入国させているという.
 このトルコとシリアの国境を本当の意味で統制しているのは,検問所にいるトルコの警備隊ではなく,誰もが恐れるトルコの「ギャング」の中の4,5人の有力者のグループだ,とハルハレンは言う.
 彼らがキリスの街で密入国の「商売」を仕切っており,ハルハレンも毎日のようにその人々に会っているというのだ.
 彼によると,密入国案内人は1人を密入国させるごとに75トルコ・リラ(約30ドル)を受け取るが,そのうち20ドルほどをトルコの犯罪組織と国境警備隊員に払わなければならないため,案内人の手元に残るのはおよそ3分の1だという.[4]

 国防と安全保障問題を専門とするイギリスのシンクタンク「英国王立防衛安全保障研究所」の準研究員で,トルコ研究の専門家であるアーロン・スタインによれば,密入国問題の解消に取り組むことは,核戦争後にがれきを片付けるような仕事だという.[4]
 それは,広範囲に破壊されたものを元に戻すのは容易ではない,場合によっては不可能かもしれないということを意味している.[4]

 トルコ側以外の要因としては,シリアとトルコの国境の通過所の多くが,ダーイシュの支配下にあることも挙げられる.[3]
 トルコ政府はシリア政府を,ダーイシュをトルコに密入国させていると非難し,シリア政府はトルコ政府を,シリア国内で戦うイスラーム過激派に武器などを補給していると非難している.[3]
 要するに互いに責任を押し付け合っている状態であり,この状態が続く限りは,問題の解決は望めないだろう.

 【参考ページ】
[1]"Newsweek" 2014.10.21号,p.30
[2]http://cappadociapress.net/turkey_news/2015/02/12/398
[3]http://blog.livedoor.jp/takosaburou/archives/50743700.html
[4]http://www.huffingtonpost.jp/2015/03/02/from-turkey-to-isis-held-syria-is-25_n_6789050.html
[5]http://www.cnn.co.jp/world/35060262.html


 【質問】
 ダーイシュに加わっている外国人志願兵ですが,戦力としてちゃんと役に立っているの?

 【回答】
 およそ役に立たないことのほうが多いらしい.

 ロンドンにある過激化研究・政治暴力国際センターの調査によれば,彼らは歴戦の兵士達とは分離され,補助的な役割を与えられがちだという.[1]
 彼らに与えられる役割は主に,
・SNSを通じた欧米向けの宣伝
・ベテラン兵士を守る「人間の盾」
・人質の見張りや殺害[1]
 女性の志願兵も少数いるが,彼女らはさらに悲惨な目に遭っていると言われている.[1]

 また,傭兵経験の長い高部正樹(文中敬称略,以下同)によれば,外国人志願兵はまず前線に送られ,捨て駒の扱いを受けるという.[2]
「たとえば100人いれば,そのうち半年たって一人二人生き残っていて,そいつらが使える戦力になればいい,という使い方をされる」
「そもそも実践経験豊富で戦意も高い,自称ムジャヒッディーンの中に,銃を触ったこともない青年が,ぽっと入っていっても,生き残ることのほうが奇跡」
と,高部は述べている.[2]

 さらに,黒井文太郎によれば,自爆攻撃要員とされることも多いという.
「外国人戦闘員は概して地元出身者よりも過激思想が強い傾向があり,自爆攻撃要員としても使われることが多いようです.
 とくに,とりたてて戦闘技能もなく,しかもアラビア語も英語も不得手なような戦闘員は,他に使い道がないこともあり,自爆攻撃に回される例もあるようです」
と,黒井は述べる[3](強調は編者)

 しかし一方で,何か特殊な技能があれば,上述したような補助的役割を任されることになるという.
 黒井によれば,
「たとえば,英語とアラビア語の話せる戦闘員は,他のアラビア語が不得手な外国人戦闘員たちの統率を任されたり,外国人人質の管理を任されたりすることもあります.
 イスラム国が力を入れている,ネットでの広報活動に従事することもあります」
という.[3]

▼ 実際,ダーイシュによる「粛清,味方殺し」も頻繁に起きていると言われる.
 以下引用.

------------
 イギリスのインド系下院議員ナディム・ザハウィは8月末,イラク北部クルド自治政府のマスード・バルザニ議長や閣僚と会談した際,複数のクルド人兵士と話をする機会があった.
 彼らは,ISISとの戦闘で目撃した出来事を語った.
 戦闘で奪い取った敵の戦車の砲塔には,ISIS戦闘員が体を縛り付けられていた,と.
「持ち場を離れたり降伏したりすることを許さず,最後まで戦わせるためだ」
と,ザハウィは話す.
 ISISが,脱走した戦闘員を捕えて殺害する事件も起きていると聞いたという.

 ISISは,忠誠心を疑われた戦闘員も頻繁に処刑しているというのは,クルド自治政府の報道官マリワン・ナクシュバンディだ.
「9月5日の金曜礼拝の直後には,戦闘員5人を公開処刑した」
 殺害された5人は,ペシュメルガとの戦闘続行に消極的だった」
と糾弾され,スパイ容疑をかけられたとのことだ.
------------[4]

 かといって,ダーイシュから逃げ出すのも,外国人戦闘員にとっては容易ではなさそうだ.

------------
 ジハード志願者は,ISISの拠点があるシリアに到着した途端に逃げられなくなると,過激派の動向に詳しい英シンクタンク,「クイリアム基金」の幹部ジョナサン・ラッセルは強調する.
 クイリアム基金のメンバーが話を聞いたある戦闘員は,こう語ったという.
「国境を越えてシリアに入った瞬間,裸にされるようなものだ……
 武器などを提供してくれる人物に頼らざるを得なくなる.
 パスポートを取り上げられ,言われたとおりにするしかなくなる」
------------[4]

 運良く生還して帰国できたとしても,当然,残る一生を「テロリスト」として,当局の監視対象として過ごすことになる.[2]
 また,ノルウェー国防研究機構のトーマス・ヘッグハマーによれば,こうした経験は人間を残忍な性格に変える[1]ため,普通の社会生活を営むにも支障が出るだろう.

 【参考ページ】
[1]"Newsweek" 2014.10.21号,p.27
[2]https://www.youtube.com/watch?v=7zw7D5RoLvM
[3]黒井文太郎『イスラム国の正体』(KKベストセラーズ,2015)
[4]"Newsweek" 2014.10.21号,p.34-35

インドネシア人義勇兵とされる動画

 【質問】
 ジェームズ・フォーリーって誰?
 3行以上で教えて!
ki James Foley?
Kérem, mondja meg a három vagy több sorban.

 【回答】
 ジェームズ・フォーリー James Foley (1970.10.18~2014.8.19?)はアメリカ人ジャーナリスト.
James Foley (1970.10.18 - 2014.8.19?) egy amerikai újságíró.
 イリノイ州エバンストン生まれで,元教師.
 2014年8月,シリア北部ラッカにおいて,ダーイシュによって斬首され殺害された.

*     *     *

 イエズス会 Societas Jesu / a Jézus Társasága ,これは1534年,イグナチオ・デ・ロヨラ Ignacio López de Loyola やフランシスコ・ザビエル Francisco de Xavier らによって創設された団体である.
 同会は世界各地への宣教に務め,日本にも初めてキリスト教をもたらした.
 21世紀の今日でも会員数2万を擁する,世界で2番目に大きいカトリックの男子修道会として,112ヶ国で活動している.

 フォーリーが1996年に卒業したマーケット大学 Marquette University も,イエズス会の運営する私立大学であった.
 フォーリー自身もカトリック教の信心深い家庭の出身で,やはりカトリック教徒として育てられた.
 大学での専攻は歴史学だったという.
 イエズス会の歴史についても学んだだろうことは,想像に難くない.
 ひょっとすると,ザビエルの日本行についても学んだかもしれない.

 大学卒業後,彼は教師となり,ティーチ・フォー・アメリカ(TFA)のプログラムを通じてフェニックス(アリゾナ州)の貧困地域の生徒を教えた.
 その後,シカゴのクック郡保安官事務所のブートキャンプ(受刑者矯正施設)で受刑者を教育指導した.

 だが,2000年代半ばにジャーナリスト転職を決意.
 2008年,ノースウェスタン大学のジャーナリズム大学院を卒業すると,イラクで活動.
 彼が2011年に同大学で講演したときのビデオによると,彼が戦闘地域の報道にのめり込んだ背景には,2007年に軍人としてイラクに派遣された兄弟の存在もあるという.
 戦争を遠くから眺め,いら立ちと断絶を感じた,と彼は述べた.

 2011年1月には,星条旗新聞の記者として,活動の場をアフ【ガ】ーニスタンに変えたが,2ヶ月後にはマリファナ所持でカンダハール基地の憲兵に逮捕され,解雇された.

 そこで「グローバル・ポスト」の委託を受けてリビアへ行き,反カダフィ蜂起の取材に当たったが,4月5日,親カダフィ派の部隊によって襲撃を受け,ジャーナリスト仲間と共に逮捕された.
 その際,フォト・ジャーナリスト,アントン・ハンメル Anton Hammerl が死亡している.

 解放されたのは44日後.
 その間,彼は同じく人質となったフリーランス・ジャーナリストのクレア・ジルズと一緒にロザリオを繰って祈ることで監禁生活を切り抜けた.
 この「ロザリオの祈り」は,フォーリーの母親と祖母が行っていたもので,「天にまします」の間にはさんで「めでたし」の祈りを10回唱えるやり方.
 100の「めでたし」を唱えるのに,丸1時間かかるという.
 後にフォーリーは,マーケット大学卒業生の雑誌に,
「クレアと私は,一緒に声を出して祈った.
 私たちの弱さと希望を一緒に声にすることによって力を得られるように感じた.
 あたかも神と会話しているように感じられたのだ」
と寄稿している.

 彼は解放後,すぐにまたリビア取材に戻った.

 そして反政府運動が激化したシリアへ.
 だが2012.11.22,シリア北西部へ密入国しようとして,トルコ国境で拉致された.

 シリア情報筋によれば,彼を攫ったのは「ダウード旅団」であるという.
 この武装組織は,2014年時点で構成員,約1000.
 かつてはアブ・モハメド・アルシャミの指揮下で「ムジャヒッディーン軍」を名乗っていたが,2012年末に現在の組織名に改称した.
 最初は自由シリア軍などと共闘していたが,後にダーイシュへ鞍替えした.
 フォーリーはダーイシュへの忠誠のあかしとして,ダウード旅団が誘拐してダーイシュへ献上した可能性が高い.
 2012年にシリアで行方不明になった2人の報道写真家,ジョン・カントリーとジェロエン・ウーレマンスを誘拐したのもこの組織だと見られている.
 幸い,カントリーらは別の反政府組織に助けられて脱出できた.

 2014年夏,アメリカの米特殊作戦軍(USSOCOM)は,救出作戦を実施した.
 フォーリーの他にもスティーブン・ソトロフ Steven Sotloff ら,何人ものアメリカ人が身柄を拘束されていたからだ.
 ワシントン・ポスト紙によると,作戦には航空部隊を含む数十規模の特殊作戦軍部隊が関わり,隊員の1人はダーイシュ戦闘員らとの銃撃戦で負傷したという.
 だが,ジョン・カービー John Kirby 米国防総省報道官の声明によれば,人質らはその場所におらず,作戦は成功しなかったという.

 2014.8.19,ダーイシュはフォーリーを斬首した処刑ビデオをソーシャルメディアサイトにて公表.
 頭を剃られ,オレンジ色の囚人服を着させられたフォーリーは,カメラに向かって,
「『イスラーム国』に対する米軍の空爆は,私のひつぎを強く打ち付ける最後のクギであり,死亡証明書への署名だ」
とコメントさせられた後,首を切られた.
 ダーイシュは同時に,スティーブン・ソトロフを拘束しているとするビデオもに投稿した.
 ビデオの中では覆面の男が,
「この米国市民の命はオバマの次の決断にかかっている」
と英国なまりの英語で語った.
 軍事介入中止を要求するものだ.

 フォーリーの実家周辺の住民たちは,彼の家族が通うカトリック教会でたびたび開かれる祈りの会に出席し,彼の無事を祈っていた.

 一方,アメリカ国務省は家族に対し,「身代金を支払わないよう脅して」いた.
 一度でも身代金を払うと,また他のアメリカ人がターゲットになる可能性が高くなる.
 その国務省の判断自体は正しい.
 しかし……ということで,当然ながら議論を呼ぶことになった.

 フォーリーを斬首した実行犯は,ロンドン西部に住んでいたヒップホップアーティストのアブデル・マジェド・アブデル・バリー Abdel Majed Abdel Bary (当時23)とみられている.
 彼は2013年に英国を出国している.
 彼は今,ダーイシュから抜け出し,トルコにおいてダーイシュの追手と英国諜報機関の両方から逃げ回っているという…

 【参考ページ】
http://www.afpbb.com/articles/-/3023632
http://jp.wsj.com/articles/SB10001424052970203403704580104791021448612
http://orapro-nobis.blogspot.jp/2014/08/blog-post.html
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2014/08/post-3363.php
http://www.huffingtonpost.jp/2014/08/19/isis-reportedly-beheads-us-journalist-james-wright-foley-on-camera_n_5693133.html
http://www.sankei.com/world/news/140820/wor1408200046-n1.html
http://jp.wsj.com/articles/SB10001424052970203403704580102930717940948
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140821-00000002-jij-n_ame
http://pocop0c0.blog.fc2.com/blog-entry-58.html

https://www.youtube.com/watch?v=9VYXKeGNPPk

twitter, 2016.10.15


 【質問】
 デビッド・ヘインズ誘拐殺害事件について3行以上で教えてください.
Kérem, mondja meg ez emberrablás s gyilkosság David Haines ellen a három vagy több sorban.

 【回答】
 2014年9月頃,スコットランド人の人道援助活動家,デビッド・ヘインズ David Haines (当時44)がダーイシュによって殺害された事件.
 彼は2013年3月にシリアで誘拐されていたが,2014.9.13,ダーイシュはその処刑動画をネット上に公開した.
 動画の中でダーイシュは,「米国との悪の同盟に加わった政府に対し,手を引くよう警告する」と英国を脅迫したが,逆に英軍の空爆参加を招いた.

*  *  *

 ダーイシュの嫌がることは2つある.

 一つは,小瀧透によれば,女性の教育水準の向上である.
 女性の地位が高まれば,イスラーム過激原理主義の社会的根拠は失われるという.
 なぜならイスラーム社会は過剰な父系社会となっているので,極端なマッチョ志向がはびこる.
 また,高等教育を受けた女性は,総じて晩婚になるか,あるいは結婚を回避する.
 その結果,少子化が進行し,人口圧が減少し,社会の安定がもたらされることになる.

 もう一つは難民支援である.
 ダーイシュは支配領域の住民を,戦費調達のための搾取対象として,自爆要員や少年兵を含む兵員調達のための人材源として,あるいは人間の盾として,都合よく利用している.
 よって,住民が難民として流出すれば,ダーイシュにとっては「国力」が削がれることになる.

 必然,ダーイシュは女性から教育の機会を奪って奴隷として売買し,また,難民支援を妨害する動きに出る.

 2013年3月,援助機関職員デーヴィッド・ヘインズ David Haines (44)がシリアにて誘拐される.
 ヘインズは1970.5.9,東ヨークシャー生まれのスコットランド人.
 英空軍でエンジニアとして働いた後,1999年に人道援助活動家となり,旧ユーゴスラヴィア,アフリカ,中東で活動.
 2012年にはNGO「Nonviolent Peaceforce」(もちろん非武装)の一員として,南スーダンにおける平和維持活動を行った.
 シリアでは,パリに本部を置く国際NGO,ACTEDの物資輸送,安全対策の責任者を務め,同国北部アトマの難民キャンプに人道支援物資を届ける手配をしていた.
 拉致されたのは,そのキャンプの付近でのことだった.

 2014年8月ごろ,英当局は,ヘインズらダーイシュの人質となった英国人の救出作戦を決行.
 だが,人質は他に移されており,作戦は失敗に終わった.

 2014.9.14,ダーイシュは,ヘインズを殺害する映像をインターネット上で公開した.
 彼は
「私が処刑される責任は全てキャメロン首相にあると言いたい」
などと言わされた後,ナイフで首を切断された.
 ダーイシュは,英国が米国によるダーイシュ掃討に協力していることが殺害の理由とし,2人目の英国人人質殺害も予告した.
 本気で英国にそれを止めさせる気だったのか,それともただのプロパガンダだったのかは分からない.

 もし前者だとすれば,それは完全に裏目に出た.
 英国はヘインズ殺害を機に,ダーイシュ空爆に加わったからである.

 ヘインズや後藤健二の殺害にも関わったとみられるのは,「ビートルズ」である.
 もちろん綽名.
 こちらのビートルズは,ダーイシュに加わっている,イギリス出身者4人から成るグループである.
 彼らは人質らに暴行や拷問を加え,殺害する役を担っていた.

 ヘインズの首を切ったのは,4人の中で最も悪名高いモハメド・エンワジ,通称「ジハーディ・ジョン」だった.

 その後,エンワジは2015年11月,米軍のドローンによる空爆で殺害された.
 「ビートルズ」の他のメンバーのうち,アレックス・コーティーは逃亡中.
 エイン・デービスは2015年トルコで逮捕.
 シャフィ・エルシークはシリアに潜伏中だという.

 ダーイシュ版「ビートルズ」の崩壊には,ダーイシュ版「ヨーコ・オノ」の登場を待つまでもなかったようだ.

 【参考ページ】
小瀧透『血で血を洗う「イスラム国」殺戮の論理』(飛鳥新社,2015),p.55-57
http://www.yomiuri.co.jp/world/20140914-OYT1T50071.html
http://www.afpbb.com/articles/-/3025880?pid=14422101
http://qnanwho.blog.so-net.ne.jp/2014-09-14
http://www.huffingtonpost.jp/2014/09/14/is-british-aid-worker_n_5817668.html?utm_hp_ref=mostpopular
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/05/isis-58.php

https://www.youtube.com/watch?v=txjz9OUaxf0

【ぐんじさんぎょう】,2016/10/22 20:00
を加筆改修


 【質問】
 北大生事件とは?

 【回答】
 「事件」と呼ばれているにしては誰も起訴さえされていない,事件未満の「珍事」.

 2014.10.7,警視庁公安部外事3課が,北海道大学の26歳の学生を,「ダーイシュに戦闘員として加わるため,シリアへの渡航を計画していた」として,外国に対し私的に戦闘行為をする目的で準備や陰謀をすることを禁じた,刑法の「私戦予備及び陰謀」の疑いで,都内の彼の滞在先等を捜索した.[1]
(週刊新潮によれば,家宅捜索が行われたのは10.6~10.7の2日間)[2]

 そもそもはこの北大生が同年8月,千葉県在住のフリーター(23歳)と共に,東京・秋葉原の古書店の「求人」の貼り紙を見て,シリアでの渡航を思い立った[1]ことが発端.
 「求人」は,古書店関係者の男性によって4月半ばごろに貼られたもの.[2]
 その古書店関係者は,応募してきた2人をイスラム法学が専門の元大学教授・中田考(文中敬称略,他も同じ)に紹介.[1][2]
 捜査関係者によると,古書店関係者はまた,北大生に渡航資金として十数万円を渡した.[9]
 中田は2人を常岡浩介に紹介し,「同行してやって欲しい」と頼んだという.[2]
 2人ともすぐにでも渡航したいということで,その日取りは8月11日と決まった.[2]
 しかし,その日の朝,フリーターは母親に渡航計画がばれて,自宅に監禁され,北大生は「パスポートを盗まれ,行けません」ということになって急遽中止.[2][5]
 北大生自身が常岡にした話によれば,「出発前日に壮行会があり,彼のシリア行きに反対している友人がそこで盗んだ」という.[2][5]

 この時点でフリーターは脱落.[2]
 しかし北大生のほうには渡航の意思が依然としてあり,再度常岡らと打ち合わせ.[2]
(ただし,その後,常岡は「北大生には渡航の意思がなかった」[6]と主張を変えている)
 新たな日取りは10月7日.[2]
 常岡と別の便でトルコに向かい,現地で連絡を取り合う予定だった.[9]
 だが,その当日,警視庁公安部の家宅捜索により,渡航を阻止された形となった.[2]
 常岡によれば,話を当局が知るところとなったのは,この北大生自身が,パスポートが盗まれた件を警察に届けたことからだという.[5]
 警察は,パスポートを盗んだという友人を事情聴取,その際にこの友人が,北大生の渡航計画を警察に対して述べたと推測される.[3][5]

 なお,その日,公安部は常岡の事務所[3]や,中田の自宅なども関係先として捜索し,事情聴取を行った.[1][3]
 常岡によれば,その際,取材に使うビデオカメラ,パソコン,ハードディスク,携帯電話,タブレット端末,航空券,現金,クレジットカードなど62点が押収されたという.[5][10]
 タブレット端末については,警察からパスワードの問い合わせがあったが,イスラム国とは関係のない取材データが入っており,常岡がパスワードを教えることを拒否すると,「では破壊して調べる」と言われたという.[5][10]
「ダーイシュ幹部についての情報を,それらから引き出したかったのではないか?」
という旨,彼は述べている.[5]

 「私戦予備及び陰謀」罪という,今まで適用されたためしの無い法律を警視庁が持ち出してきたのは,
>国連安全保障理事会が,「イスラム国」への人の流入を阻止するために動き出したことが無縁ではないだろう.
と江川紹子は述べている.[10]

 この北大生はどんな人物か?
 週刊新潮が詳しく書いている.
(ただし,元ソースは常岡)
 それによれば,イスラームに入信しており,「ガウス」というムスリム名を持っているという.[2]
 だた,この改宗は,読売新聞によれば,中田と知り合った後になされたものらしい.[8]
 本人申告によれば,2014年4月に大学生活を捨て,家族も友人も投げ捨て,失踪する形で札幌を出て,日本各地を放浪.[2]
 7月中旬に上京したという.[2]

 twitterでのHNは「障害者(@gravestone11)」[7]
https://twitter.com/gravestone11

 ダーイシュについての知識は皆無に近いどころか,アラビア語を解せず,英語も少々というレベル.[2]
 「北大生は,戦場のシビアな世界についての認識が全くなかった」(常岡)という.[2]
 インタビューでは,
「自分がこれまで積み上げたものに価値はない」
「シリアという国に魅力を感じた.そこには,戦場があり,全く違う文化がある.自分は今,日本に流通しているフィクションがすごく嫌になっていて,別個のフィクションの中に行けば,また発見があるかなと」
「人を殺す局面も来るかもしれないが,それはそれで喜ばしいこと.殺されるかもしれないが,たいした問題ではない.どうせ日本にいても1~2年で自殺して死んだはずだから」
などと話している.[2][4]

 もう一人の渡航希望者だった,「千葉のフリーター」も,やはりイスラームに入信しており,「アブドルワーシュ」というムスリム名を持っているという.[2]
 報道によれば,「アブドルワーシュ」は当時,コンビニエンスストアでアルバイト中.
 兵器などに強い関心を見せていたという.
「自分の趣味を満足させるために戦闘に参加する.シリアで死ぬ気はない.気が済んだら帰る」
と話し,学生と「迫撃砲の撃ち方」などを語り合っていたという.[9]
 7月末に2人と会った鈴木美優は,
「中田さんが,彼について,“アブドルワーシュは片道でいいそうなんだ”と言い,フリーターが“そうです.僕,ジハードで天国に行きたい”と話していたことが印象的でした」
と述べている.[2]

 中田考については別項作成予定なので,ここでは省略.

 その中田に渡航希望者を引き合わせたのは,通称「大司教」という人物.
 上述の「古書店関係者」.
 この人物も言動がかなりアレ.
 実家は神仏習合型の新興宗教団体運営.[2]
 当人は開成高校⇒東大理学部数学科に進学したが,中退.[2]
 在学時は「戦史研究会」に所属していたという.[2]
 その後,彼は東京・阿佐ヶ谷で,その辺り一帯の大地主である大家の不動産の管理人として働くため,平屋建てを借りた.[2]
 ここをシェアハウスにして,知り合いと共同生活を送っていた.[2]
 頭脳明晰で面倒見は良いが,アスペルガー症候群に苦しんでいたそうで,そのシェアハウスに住まわせている人の中にも,社会適応が困難な人物を含む,発達障碍者もいたという.[2]
 しかし,建物を勝手にリフォームしたため,大家とトラブルに.[2]
 そして大家から立ち退きを求める裁判を起こされたため,騒ぎを起こして,警察を呼ばれたことも.[2]
 近所では,「変な人が住んでいて困る」「怖いから近付かないようにしよう」と言われていたという.[11]
 主治医に相談し,障害者の自立支援のための会社を設立してもらい,その業務の一環として,2014年4月に秋葉原にて古書店を開業する.[2]
 件の「求人」が貼られていた古書店がそれ.[2]
 その貼り紙を見た北大生も2014年8月から,先述のシェアハウスに居住していたという.[2]

「“大司教”は,それまで,社会に適応し難い人間の仕事や生きがいを探す支援を行っていた.
 そんな彼が,中田元教授とのやりとりで,『イスラム国』の外国人兵士らが月給をもらい衣食住には困らないことを知った.
 北大生ら自殺願望の強い人間を見るにつけ,生きがいだけではなく,“死にがい”“死に場所”も斡旋してやろうという気になったのではないかと見ています.
 北大生で成功すれば,今後,生きることに絶望している引き籠りやニートを,第2,第3の志願兵として送り込もうとしていた可能性もある」
というのが,公安関係者の見方.[2]

 常岡については,これはgoogle検索するだけで,プロフィールや言動が山ほど出てくるが,この「事件」に関してはすっかり被害者気取り.
 たしかに,今回の警視庁公安部のやりかたには,かなり問題がある.
 捜査に名を借りた取材妨害以外の何物でもない.
 しかし一方で,仮に公安部が動かなかったならば,常岡は北大生を連れてシリアに渡っていたわけで,ただの「被害者」ではないことは明白だろう.
 今回の件で,世間から常岡への同情が大して集まらず,スルー同然なのは,どっちにも問題があるという「どっちもどっち感」が強いためだろうと想像される.

 発 者 同         . 。_   ____           争
 生 同 .じ     .    /´ |  (ゝ___)          い
 .し 士 .レ      .__/'r-┴<ゝi,,ノ   ro、      は,
 .な で .ベ      ∠ゝ (ゝ.//`   ./`|  }⌒j     
 .い し .ル        } ⌒ /`ヽ、_∠l,ノ ・ヽ´
 .! ! か の       /  ´..:.} >、、___,  .r、 ソ、`\
             /   ..:.:.}   /   |∨ ` ̄
            /   ..:.:./    |   丶
           / _、 ..:.:.:.{    .{.:.:.   \
          {   ..:Y  .ゝ、   {.:.:.:.:.    ヽ
          |、  ..:/ 丿 .:〉   >.- ⌒  .  ヽ
          / {. ..:./ ソ ..:./  .(    ..:.:.:`  ..:}
         ./..:.:}.:.:./ ヘ、 ..:./   .\ ..:.:r_,ノ、.:.:}
        ./..:.:/|.:/   {.:./     X.:.:}.}   X X
        /..:.:/ .}.:|    }:/       .Y丶ヽ  Y.:Y
  . __/.:/ { }  《.〈、     _,,__>.:》丶   Y.:\
  /.:.:.:.:.::/   !.:.:ゝ  ゝ.:. ̄ヾ ´:.:.:.:.:.:.:.:.:ヾゝ   \.: ̄>


 王陽明は,
「いくら学問を積み重ねても,高潔な人格の形成を学問の目的にしないと,虚妄に陥るよ」
という主旨のことを述べているが,この一件に登場する主要人物群は,どれも虚妄に陥った者の標本のように見えて仕方ない.

 【参考ページ】
[1]http://www3.nhk.or.jp/news/html/20141007/t10015203321000.html
[2]『週刊新潮』 2014年10月23日号
[3]https://www.youtube.com/watch?v=L8NQkn-rPZQ
[4]https://www.youtube.com/watch?v=PfAMqMWCPnc
[5]https://www.youtube.com/watch?v=Pq9xnSLc610
[6]https://www.youtube.com/watch?v=R0PiHt8TnDQ
[7]http://matome.naver.jp/odai/2141306433927544101
[8]http://matome.naver.jp/odai/2141271878617055001
[9]http://www.huffingtonpost.jp/2014/10/10/islamic-state_n_5968806.html
[10]http://biz-journal.jp/2014/11/post_7402.html
[11]http://www.dailymotion.com/video/x27ga7c_%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%83%A0%E5%9B%BD%E6%88%A6%E9%97%98%E5%93%A1%E5%B8%8C%E6%9C%9B%E3%81%AE%E5%8C%97%E5%A4%A7%E7%94%9F%E3%81%AE%E5%8D%94%E5%8A%9B%E8%80%85%E3%81%8C%E9%A1%94%E3%83%90%E3%83%AC%E3%81%AE%E4%BB%B6_news

 【関連リンク】
「Togetter」◆(2013-07-15) 関係者の証言

書店に貼られていたという「求人広告」
(こちらより引用)


 【質問】
 ダーイシュによる日本人人質殺害事件について,3行で教えてください.

 【回答】
 シリアのアレッポで,湯川遥奈および後藤健二(文中敬称略,以下同)がダーイシュによって拉致され,身代金を要求された事件.
 最初は2014年12月上旬,家族に対して10億円,次いで20億円の身代金が要求されたが,2015.1.20になって日本政府に対し,2億ドルを要求.
 期限の72時間が過ぎると,湯川を殺害したとした上で,テロリストのサジダ・リシャウィ釈放を求める要求を出したが,2月1日までには後藤も殺害された.

 【参考ページ】
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/politics/article/140986
http://matome.naver.jp/odai/2142174080630645501

【ぐんじさんぎょう】, 2015/02/27 20:00
を加筆改修


 【質問】
 ダーイシュが日本人人質殺害事件を起こしたのは,
アレ宰相がイスラエル側に肩入れしたせい
なの?

 【回答】
 2015.3.1までに得られた情報の限りでは,そうでない可能性のほうが高い.

 まず,事件が起きたのは,2014年12月のことで,このころ身代金要求のメールが,後藤健二(文中敬称略.以下同)の家族の元に届いている.
 これは,アレ宰相の中東歴訪より以前のことである.

 その後,ダーイシュは要求先を日本政府に変えるのだが,佐藤優によれば,これは身代金をとることを断念し,日本政府に恥をかかせることを目的とすることに変更し,中東歴訪のタイミングまで待っていたのではないか?と分析している.
 その根拠として,要求金額2億ドルに佐藤は注目する.
 100ドル札は殆ど流通しておらず,また,仮に2億ドルを受け取ったとして,重量的にも運搬不可能.
 72時間以内の調達も不可能.
 つまり,そんな要求を出す時点で,ダーイシュは本気で身代金を要求しているわけではないことが明白であると,彼は分析している.
 詳しくは
https://www.youtube.com/watch?v=I6hY_uBNV6k
を参照されたし.

 そうだとするならば,仮にアレ宰相がイスラエルに行かなかったとしても,何らかのタイミングで「要求」を突きつけてきた可能性が非常に高く,アレ宰相のアレさの中身は関係していないことになる.

 一方,ダーイシュは本当にカネをとろうとしていたとする分析もある.
 青山繁晴は,現在ダーイシュが,油田への合同軍の空爆や原油価格暴落により,資金繰りに困ってきているだろうことを指摘する.
 そのための身代金要求だと彼は言う.
 詳しくは
https://www.youtube.com/watch?v=GP2GUrihauE
を参照されたし.

 そうだとしても,空爆や原油価格暴落を,アレ宰相の責任に帰することは非常に困難である.

 対して,「イスラエル側に肩入れしたせい」とする側の根拠は,ダーイシュ自身の声明以外に見当たらない.
 言うまでもないことだが,一般的に言って,テロリストのプロパガンダをそのまま鵜呑みに出来ないことは,過去の幾多のテロ組織のプロパガンダが証明している.

 そんなものを,仮にも軍事雑誌にも寄稿しているブロガーともあろう者が,鵜呑みにしてくれているのだから,ダーイシュとしては願ったり叶ったりだろう.

 なお,この話の真偽と,安倍外交の妥当性とは,また別問題であるので念のため.

mixi,2015年03月01日09:54

 面白いことに,ISランドはイスラエルに直接行動をしかけた試しがないんだよね.

ユズコセウ=サン in mixi,2015年03月01日 11:32


 【質問】
 ダーイシュによる日本人人質殺害事件ですが,値引き交渉は可能だったのですか?

 【回答】
 そのように主張するブロガーもいる.
 文谷和重(文中敬称略,以下同)によれば,

------------
http://schmidametallborsig.blog130.fc2.com/blog-entry-1323.html
 どうせアラブ世界が相手の話だ.裏でゴチョゴチョやれば値引き交渉もできる.こないだ事情聴取したが,日本にも交渉チャンネルになりそうな人物も居るし,イスラム国に行きたいというやつもいた.ご本尊を内々に交渉チャンネルを立てて「イスラム国に行きたい奴,直接じゃないけど出国させたよ」とでも言えば,とりあえず人命は保全される.

 時間かければ値段も1掛や5分掛け位にも値切れるだろう.魚だって採れたて新鮮活魚だから高いのであって,時間が立って弱れば安くなる.足の早い青魚は〆たらすぐに1円にもならなくなるから,払う気を見せればそうそう〆たりはしない.いつかカネになると思えば,待遇も罪人から,イエメン名物,誘拐ゲストの大歓待くらいはしてくれるだろう.
------------

であるという.
(必要な部分のみ引用した)

 一方,「交渉自体が成り立たなかった」という見解もある.
 佐藤優によれば,
・「口で要求していることと,実際に要求しているかどうかは別.
 100ドル札は殆ど流通しておらず,使用しようとすればすぐに足がつく.
 また,仮に2億ドルを受け取ったとして,重量的にも運搬不可能.
 72時間以内の調達も不可能.
 つまり,そんな要求を出す時点で,ダーイシュは本気で身代金を要求しているわけではないことが明白」
であり,それはすなわち,
「彼らは交渉しようとしていない.一方的にシナリオを描いていて,それに沿って発信しているだけ」
であることを意味しているという.

 ヨルダンの外相が,死刑囚釈放の条件をマスコミに公にしたことについても,佐藤は,
「本来,そういう条件交渉は,水面下で行われるもの.
 それを公にしているということは,交渉のパイプが詰まっているため,マスコミに公にすることで何とか相手に伝えようとしている,ということを意味する」
という.

 詳しくは,
https://www.youtube.com/watch?v=I6hY_uBNV6k
を参照されたし.
(佐藤はこれまで,自分の喋った内容はほぼ必ず自著にも書いているから,彼の次の近著にも,似たような記述が載るだろう)

 交渉自体が成立していない以上,値引き交渉はまず不可能と思われる.

 また,高橋和夫は,人質ビデオが出る以前に,水面下で日本政府がダーイシュと交渉していた可能性を指摘する.
 彼によれば,ビデオをダーイシュが公開したのは,交渉が不首尾に終わったためではないかという.
 詳しくは
https://www.youtube.com/watch?v=xlJKZXn58Wo
を参照されたし.

 もしそれが正しいとするならば,ビデオが出た時点ではもはや,値引き交渉など不可能であろう.


 【質問】
>こないだ事情聴取したが,日本にも交渉チャンネルになりそうな人物も居るし,イスラム国に行きたいというやつもいた.ご本尊を内々に交渉チャンネルを立てて
>「イスラム国に行きたい奴,直接じゃないけど出国させたよ」とでも言えば,とりあえず人命は保全される.
>http://schmidametallborsig.blog130.fc2.com/blog-entry-1323.html
という意見があります.
 常岡浩介や中田考ら(文中敬称略,以下同)のことを指していると思われますが,彼らを交渉役として起用すべきだったのでは?

 【回答】
 それについては賛否両論がある.

 たとえば手嶋龍一は,おおよそ次のように述べる.
「ダーイシュ支配下の地域にも行くことができるという点で貴重な人材なのだから,彼らを同地域に渡らせることにより,たとえ交渉成功まで行かなくとも,ダーイシュについての情報を,彼らを通じて得ることができるだろう」と.
 詳しくは,
https://www.youtube.com/watch?v=xlJKZXn58Wo
を参照されたし.

 一方,宮家邦彦は否定的である.
 彼によれば,交渉とは水面下で行われるものであるので,中田が記者会見で公に「交渉役を買って出る」ことを広言した時点で,既に欠格であるという.

 これについては手嶋も認めており,上記の手嶋自身の主張についても,
「マスコミに有名になってしまう前に起用すべきだった」
と,留保条件を付けている.
(ただ,両名は北大生事件渡航未遂の時点で,既に有名になってしまっているので,その留保条件を考慮するなら,事実上,「交渉に起用すべきではない」ということになってしまうのだが)

 詳しくは上記動画を参照されたし.

 佐藤優に至っては,「中田考はダーイシュのPR担当」だとして,中田の姿勢自体に否定的である.
 彼は次のように述べている.
「彼[中田]がまずやらなければいけないのは,北大生事件に関する説明です.
『どういうお考えで学生をイスラム国に斡旋しようとしたのか』
と聞きたい.
 また彼は(04年にイラクで殺害された)香田証生さんの事件で
『シャリーア(イスラーム法)上,民間人でも成人男子なら戦闘員と見做されて処刑されても合法』
と主張していた.
 昨年7月号の『文學界』では,
『カリフ制の最高のためにジハードに身を投じて殉教するべく,持ち家を処分』
したとまで書いている.
 彼はイスラム国の宣伝をやっているわけです」
(週刊新潮 2015.2.5号,p.32)

 常岡にしても,
https://www.youtube.com/watch?v=L8NQkn-rPZQ
において,ダーイシュ支配下地域での取材に際し,
「チェチェン人司令官に身分保証してもらった」
と話しており,そのチェチェン人部隊はダーイシュに参加している義勇兵部隊である.
と話している.
 つまり,「あちら側」の人間なのであって中立でも何でもない.

 さらに,仮に情報を得るためだけに送り出したとしても,彼らから得られる「情報」にはバイアスがかかっている可能性が高く,果たして「使える情報」が得られるかどうかは疑問である.
 バイアスがかかった人間というものは例えば,
北韓に渡っても,これを「地上の楽園」呼ばわりしたり,
ポルポト政権下のカンボジアに渡っても,虐殺を感知するどころか,逆に「アジア的優しさに満ちている」などと表現したりする.
 そうした知見が,何かの役に立つのかは大いに疑問である.

 さらにまた,日本側の何らかの情報が向こうに知られるリスクもある.
 彼らが日本側の情報をダーイシュに流さない可能性は,非常に低いと考えられる.
 常岡などは,「取材源の秘匿」をタテに,向こうの情報は日本側に流さない可能性もある.
https://www.youtube.com/watch?v=L8NQkn-rPZQ
 その場合,日本側は情報を取られっぱなしで何も得るものはない.

 私見を述べさせてもらうなら,以上から総合的に判断するに,常岡や中田を交渉役に起用することは,得策とは思えないのだが…

in mixi,2015年03月14日

※下書き段階において,

 私を紹介したチェチェン勢力は「シャーム兵団」という組織で,ISに対して完全中立を維持し,他の反体制派組織とは協力,アサド政権に対しては軍事対決する姿勢の組織で,IS内のチェチェン人勢力であるウマル・シシャニ部隊とは別物です.

------------常岡浩介 in mixi,2015年03月14日 22:37(コメント欄)

との反論があった.
 調べてみると,確かに,シリア内戦には参戦しているが,ダーイシュには不参加というチェチェン人部隊もいるようだ.
 ただし,それに関するブログを読むに,中立というよりは,「ダーイシュに参加するかどうかは,現在態度保留中」という姿勢のようだ.
 また,たとえ中立であろうがなかろうが,常岡が「ワッハビーのお仲間」であるという点に違いはない.
 さらに,常岡自身が述べるところによれば,北大生事件で家宅捜索され,取材機材を押収された直後,ダーイシュの「それほど高くないランクの司令官(シリア人)」にそのことを伝え,「公安経由でアメリカに情報が漏れることを警告した」という.
https://www.youtube.com/watch?v=gjjWWptUtKY
 『週刊新潮』 2014年10月23日号では常岡は,
>今年1月,僕は『イスラーム国テルアビド市宣教責任者』という肩書きを持つオマル・グラバーという司令官と会いました.
と述べているので,「それほど高くないランクの司令官(シリア人)」とはこのオマル・グラバーのことだろう.
 警察の動きに関し,テロリストに知らせるというのは,どちら側寄りのスタンスの人間の言動であるかは,言うまでもないだろう.
 だいたい,このような写真を撮っている時点で,説得力がない.

 これが合成写真などでなく,本物の写真であるということは,常岡自身が証言している.

in mixi,2015.4.12


 【質問】
 中田考って誰?

 【回答】
 中田考 NAKATA Kou は日本のイスラーム法学者.[1]
 イスラームに改宗しており,ムスリム名はハサン Hasan.

 1960年,岡山県生まれ.[1][3]
 灘高等学校卒業後[3],早稲田大学政治経済学部に入学するが1年で中退.[7]
 1984年,東京大学文学部イスラーム学科卒業.[1][3]
 同大学ではイブン・タイミーヤを研究.
 1986年,同大学院人文科学研究科宗教学宗教史学修士課程を修了し,イスラーム学修士号取得.[3]
 1992年,カイロ大学大学院文学部哲学科博士課程修了.Ph.D.取得.[1][3]
 1992年,在サウジアラビア日本国大使館専門調査員.[3]
 1995年,山口大学教育学部助教授.[3]
 同大学では礼拝用の絨毯を持ち歩いて,いつも拝んでいるので,皆びっくりしたという.[8]
 2001年,タリバンがバーミヤン遺跡を破壊した際,学会で“私はあの行為を支持する”と宣言して,“異端の学者”扱いされるようになる.[2]
 2003年,同志社大学神学部神学研究科教授,同志社大学一神教学際研究センター幹事.[1][3]
 愛妻を亡くしてから,自暴自棄となり,大学教授を辞め,京都の自宅も売却し,“これでジハードに参戦できる.殉教したい”などと語って,東京の賃貸マンションに引き籠り,ツイッターなどに没頭するように.[2][8]
 2013年5月,株式会社カリフメディアミクス創業.[6]
 2014年6月,カリフを名乗って『イスラーム国』の樹立を宣言したアブ・バクル・アル=バグダーディーの正当性を認め,支持すると公言.[2]
 ただし,後の著書では,「カリフとして認められるかどうかはこれから次第」[1]と,態度を変えている.
 2014年8月,北大生事件に関与して,家宅捜索と事情聴取を受ける.

 池内恵は,
>「そのまんま」イスラーム法学を掲げる中田考氏の存在は貴重である.
>ただしその議論の日本社会で持つ不穏な意味合いはきちんと指摘することが必要
と述べている.[5]

 だが一方,佐藤優によれば,「中田考はダーイシュのPR担当」だという.
 彼は次のように述べている.
「彼[中田]がまずやらなければいけないのは,北大生事件に関する説明です.
『どういうお考えで学生をイスラム国に斡旋しようとしたのか』
と聞きたい.
 また彼は(04年にイラクで殺害された)香田証生さんの事件で
『シャリーア(イスラーム法)上,民間人でも成人男子なら戦闘員と見做されて処刑されても合法』
と主張していた.
 昨年7月号の『文學界』では,
『カリフ制の最高のためにジハードに身を投じて殉教するべく,持ち家を処分』
したとまで書いている.
 彼はイスラム国の宣伝をやっているわけです」[4]

 さらに佐藤は,次のようにも述べる.
「こういう人が純文学雑誌に平気で登場するとなると,その背後にはさらに裾野が広がっていると思わなければいけない.
 日本で極端な思想を持つ人たちの受け皿が,かつてのような左翼過激派ではなく,イスラム主義になる可能性は十分にある.
 集団自衛権で日本が中東に出て行った場合,向こうからすれば,イスラム世界への侵略だということになるわけだから,それに対する防衛ジハードとして,日本国内でテロが始まり得る」[8]

 もしも警視庁公安部も同じように考えていたのなら,北大生事件にかこつけて中田宅の家宅捜索を行ったことの公安側の動機も,説明がつく.

 まあ,こんな写真まで撮っているのだから,言い訳は立たんよな.

(こちらより引用)

 ちなみに,中田の近著[1]では比較的穏健なことが書かれているが,実際の言動との乖離が激しい.
 これは保身の心理の表れであり,編者の私見だが,中田が本当に信奉しているのはイスラームではなく(でなければ著書で保身に走ったりはしない),本当に信奉しているのは彼自身,すなわち「中田教」の信者なのではないか?と疑われる.

 【参考ページ】
[1]中田考『イスラーム 生と死と聖戦』(集英社新書,2015)
[2]『週刊新潮』 2014年10月23日号
[3]http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4290?page=4
[4]『週刊新潮』 2015.2.5号
[5]http://chutoislam.blog.fc2.com/blog-entry-226.html
[6]http://www.caliphmediamix.com/
[7]http://toyokeizai.net/articles/-/58720
[8]池上彰・佐藤優『新・戦争論』(文春新書,2014)

中田考


 【質問】
 フィリピンにもダーイシュは浸透しているのか?

 【回答】
 例によって両論ある.
 ダーイシュはもちろんそうだと喧伝しており,逆にフィリピン政府はプロパガンダと片付けている.
 緊急な対応が必要である,と主張している専門家もいる.

*     *     *

 ダーイシュとナチスとの類似性の指摘は,しばしば見るが,熱心に衛星国を増やそうとするところも,ナチスと似ている.
 一定数のムスリム・ムスリマが居住している国を皆,「衛星国」にしたがっているようだ.

 とはいえ,現実にはそれほどの武力はダーイシュにはないので,形ばかりの支援の他は,専らプロパガンダで声掛けして回ることになる.
 フィリピンも,ダーイシュにとってはそんな国の一つ.
 この国には14世紀,スールー王国などのスルターン諸王朝が存在し,2010年現在も5~9%がムスリム・ムスリマだ.
 イスラーム・カルトのテロ組織としては老舗の「アブ・サヤフ・グループ(ASG)」も,1990年代初めには活動を始めている.
(近年は専ら,身代金目的の誘拐事件を繰り返し,そこんじょそこらのギャングと変わらなくなっているが)
 ダーイシュから見れば,非常に都合がいい「候補」である.

 2014年7月,ASG幹部イスニロン・ハピロンが,ダーイシュに忠誠を誓う旨のビデオ声明を,ネット上に出した.
 ダーイシュは彼を「フィリピンのイスラム国」指導者に指名した.
 まだダーイシュに勢いがあったころである.
 もっとも,そのころダーイシュが発表した「5年後のイスラーム国の版図」では,東南アジアは黒く塗り潰されていなかったはずだが…

 これがASG全体の意思なのか,この幹部のお先走りなのか,それは分からない.
 少なくとも,フィリピン軍はそう見ているようである.
 フィリピン軍は「フィリピンのイスラム国」についてのダーイシュの発表をプロパガンダとして片づけている.
 確かにダーイシュは,自分がやってもいないテロで犯行声明を出すなど,プロパガンダ打ちまくりの組織だ.
 信用されなくて当たり前と言える.

 一方,フィリピン軍のそんな姿勢は間違いであると示唆するのは,シンガポール南洋理工大学ラジャラトラム国際関係学院のグナラトナ教授である.
 彼は2016.1.19,ダーイシュのフィリピンへの「衛星国」樹立の危険性を指摘し,フィリピン政府の緊急な対応が必要である,と述べている.
 曰く,ASGはスールー諸島のバシランを拠点としている.
 ダーイシュが同地域に聖域を作り,スールー諸島からフィリピンとマレーシアへの作戦を実施するようになれば,地域全体への脅威となる.
 1994年に「ジェマ・イスラミア(JI)」が最初の訓練キャンプを設立して以来,フィリピンは,インドネシア人,マレーシア人,シンガポール人,タイのムスリム,アラブ人にとり重要な訓練地となっている.
 スールー諸島は訓練,作戦基地になっただけでなく,フィリピンとマレーシアを戦略的に結び付けている.
 訓練キャンプの設置は,東南アジアのみならず,豪州,ウイグルなどの人も惹きつけよう.
 ハピロンはマレーシアを重視しており,マレーシア人がミンダナオのダーイシュに参加するだろうt.
 ダーイシュはイデオローグを送り込むだけでなく,爆発物の専門家,戦術家,その他の作戦要員も派遣する可能性が高い.
 フィリピン軍はスールー諸島のテロリストのインフラを破壊する能力に欠けており,ミンダナオ島に「国家」樹立を宣言するダーイシュの計画は,政治的安定,社会的調和,経済的成長を享受してきた東南アジアにとり,極めて現実的な脅威である…

 気になる情報もある.
 2016.4.10にはスールー諸島バシラン島の森林を巡回中のフィリピン軍が,ASGと遭遇し,約10時間にわたって交戦した.
 フィリピン軍兵士18名,ASG戦闘員5名が死亡したが,戦闘員の中にはモロッコ人が含まれていたという.
 彼は爆弾づくりのエキスパートであり,ダーイシュから派遣されてきた可能性が疑われている.
(ちなみに,この戦闘ではイスニロン・ハピロンの息子も死亡したという)

 それにしても,自ら「衛星国」になりたがる心理が,筆者には分からない.
 ナチス・ドイツが衛星国を実質「二級市民」程度にしか見ていなかったように,ダーイシュの「衛星国」もそのヒエラルキーの下部に置かれるだろうことは目に見えている.
 「神の下の平等」を掲げるのがイスラームだが,イスラーム・カルトは教えを都合よく捻じ曲げて解釈する.
 イスラーム・カルトの先行事例であるターリバーンやアル=カーイダには,明らかに階層が存在していた.
 アル=カーイダではヒエラルキー最下層のアフリカ系ムスリムは,使い走りや自爆要員であった.

 まあ,「衛星国」の中でも,幹部だけは別なのだろう.
 ナチス・ドイツでも,一般のアラブ人は劣等民族呼ばわりだったが,パレスチナ人のフサイニーだけはVIP扱いだったしね.

 【参考ページ】
http://news.asahi.com/c/aepzdwoe58fewIa8
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6174
http://matome.naver.jp/odai/2146272163680889001
http://www.thai-biz-news.info/thaibiznews/?p=380
http://www.sankei.com/world/news/160414/wor1604140035-n1.html
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016042600382&g=int
https://t.co/x234Kngb5i
http://www.moj.go.jp/psia/ITH/organizations/ES_E-asia_oce/ASG.html
http://www.sankei.com/world/news/160410/wor1604100022-n1.html

【ぐんじさんぎょう】,2016/06/19 20:00
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